第19話
「一体どういうことなんだ?!?!」
国王への謁見も終え、暫しの平穏な時を過ごしていたのだが。
どうやら“呪い”の話は父の耳にも入ったらしい。
屋敷に帰ってくるなり、新聞片手に父が大荒れである。
ほら面倒なことになった‥とノアに冷ややかな視線を送るも、ノアは何事もなかったかのように平然としている。
「アデル!ノア!これは本当か?!」
殿下から不用意に触られない為の嘘だったと正直に言うべきか、嘘だったと広まってしまった時のことを考えて黙るべきか、はたまた呪いが解けたと言うべきか。
どう答えようかと一瞬躊躇うと、ノアがその間に口を開いた。
「そうです。本当です。一生解けません」
「‥おい、ノア」
いい加減にしなさいと伝えようとするも、私が余計なことを話すと思ったのかノアは私の唇に己の手を当てた。ザ・口封じである。
「ほ、ほ、本当か?本当なのか‥?!
ノ、ノアしか触れないのか‥‥?!」
父の言葉に、しれっと頷くノア。
「俺しか触れないです」
「な‥‥そ、そうか‥‥なんということだ‥」
父が膝から崩れ落ちた。それはそうか。ひとり娘が呪いを受けたともなれば親としてはさぞかしショックだろう。
「ち、父上‥」
思わず声を掛けるも、今更全部ノアの嘘だとも言いにくい。
「え、縁談が‥くそっ‥」
ーーーん?
「ち、父上‥?」
「良い条件の縁談だったのに‥クソォッ!!」
えええええ。
あ‥いや、でも私も18歳。結婚は、お家存続の為にも娘として必要な仕事の1つ。そうか、この嘘が続く限り私はその責務を果たせないのか。それは娘として両親に非常に親不孝な‥
「安心してください。俺がいるじゃないですか」
「「‥‥」」
ノアがにっこりと笑う。
ど、どういう意味で言っているんだ?ノアがうちの養子になって嫁を貰うとでも‥‥?ズキッ。‥‥また胸が痛いぞ。
「‥‥ノア、お前はその、」
「奴隷、ですか?」
ノアは笑顔のまま表情を変えない。
奴隷として我が家に来たけれど、ここまで健やかにのびのびと生活している奴隷がこの世に他にいるものか。
籍が入っていないだけの養子みたいなものだ。それか知人から引き取り幼い頃から面倒を見ているとか、そんなニュアンスだ。うちでは。
「そ、そうだ。公には‥その、奴隷ではなく、幼い頃からアデルに仕えている護衛という肩書きだが‥」
「ならそのままでいいじゃないですか。俺が奴隷だったことはウルフ家と俺を拾った取引先しか知らないけど、どちらもバレたらご法度だから口外できないんだし、俺は幼い頃からずっとアデルの護衛だったってことで」
「そ、それにしてもだ。子爵家の婿に、ただの護衛は‥」
ん?子爵家の婿‥‥?
いまいち話についていけないまま、2人の顔を交互に見る。‥どういうことだ?ノアが養子になるという話じゃなかったのか?
「ただの護衛じゃありません。四天王を倒しましたしこの調子で魔王もやっつけます」
「うっ‥‥!!」
「それに今回の旅でも、魔族を倒しまくって相当な大金を手に入れました。魔王を倒したって魔族が滅びるわけではないから、俺は一生食いっぱぐれません。そのうえ魔族の骨は良い武器になり、魔族は時に宝石も落とします。魔族の毛皮は一部相当高値で買い取られますし‥魔族のグッズショップ増えているんですよ?ウルフ家は商家ですから、かなり貢献できると思いますけど」
「ぐむむむっ」
「それに、魔王を倒した暁には王家からたんまり褒美をもらうつもりです。称号も貰えるだろうし、土地や屋敷も貰えるかもしれません。俺は、ただの護衛じゃないので」
‥‥本当にこいつ14歳か?ペラペラペラペラとよく口が回るもんだ。
ところで‥
「つまりどういうことだ?」
私はついに口を開いた。私ひとりだけ捉え方がズレているような気がするのだ。
「ア、アデル‥その、だな。お前の婿として‥」
「アデルは俺の奥さんになるってこと」
「ん‥‥‥んん?!」
な、なんだと?!私がノアの、お、お、奥さん?!
わ、わ、私は、お前のは、は、母、なのに?!(注:母ではない)
「‥‥はぁ。しかし、悪い話ではないなぁ。
それに、呪いのことを踏まえても‥」
「ま、待ってください。ノア‥‥正気か?」
状況が状況なだけに真っ向から否定もできないのがもどかしい。
今更呪いのことが嘘だったと伝えれば父はカンカンに怒ってノアを追い出してしまうかもしれない。
「は‥?正気も何も、愛してるって伝え合っただろ。
一生一緒にいたい、ずっと守る、絶対離れないって抱き締めあったばかりなのに」
まるで“ボケたのか?”とでも言いたそうに半目になるノア。
しれっと爆弾を落としやがったな。こいつ。
「な、なんだと?!?!2人は既に恋仲だったのか?!?!」
「まぁ、もちろん指一本触れてませんけどね?」
さっきも私の口を押さえていただろうが。
それに、抱き締めあったばかりって自分で言ってたぞ。
ほらみろこの父の姿を。大いに動揺している。
まぁここまでずっと2人で過ごしていたんだから、親としてはそういう可能性を考慮しているとも思っていたのだが、父はノアのことを純粋に護衛として見ていたようだ。
まぁそれにしても‥愛してるのは間違いないが、ほら、それは母としての愛情を伝えようとしたのであって‥その、異性として、ではなく‥
じわじわと顔が紅潮していくのが分かる。
ただ父の手前、母の愛なんですと訂正することもできない。
「‥‥‥あ、愛してるのか?ノアのこと‥‥」
父が私を真剣に見つめている。
「‥‥あ、愛してはいます‥が」
母としてです。何故か近頃、不整脈が続いたり‥
ノアを想うばかりに、前世を含めて人生初の大号泣をしたりと、体に異変ばかり起きているのが気がかりだ。
そしてこんな時にも、私を見つめて柔らかく笑うノアに、ズクリと胸に矢が刺さったような感覚を感じて、戸惑ってしまうのだが。
近々‥病院に行ってみるべきなのだろうか‥。
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