第18話
1ヶ月の旅を終えた私たちは王宮にいた。
ノアが誰もが想像もつかないほどの偉業を成し遂げたからだ。
各地方にある4つの魔塔、そしてそこに棲まう四天王を倒すということは、その周辺地域に一定の安寧を与えるということにも繋がる。
国民たちには既にノアの名が知られるようになり、ノアは一躍有名人となった。
「まさかまた其方に褒美を授けることになるとは‥。まぁこうして実際に会うのは初めてだがな。‥顔をあげよ。
ノア、そしてアデル・ウルフ‥。其方らの功績は誠に素晴らしいものだ。褒美は何が欲しい?」
一生お目にかかるはずもないと思っていた国王が目の前にいた。
共に旅をしていたパートナーということで、私までノアの隣で膝をついている。
「‥‥褒美は、魔王を倒したあとに頂きます」
ノアが平然とそう言ってのけた。王宮内は途端に騒ついたが、四天王をぽんぽん倒してしまった少年の言葉を、誰も大袈裟だと捉えなくなっていた。
私は実際何もしていないから、ノアの言葉に同意という意味を込めて極々小さく頷く。
「そうか、それは楽しみにしているぞ」
こうして国王陛下への謁見の時間はすぐに終わった。
豪華絢爛な廊下を歩いている際に、皇太子殿下が姿を表した。周囲の人と同様に頭を下げて挨拶をする。
確か殿下は、金髪碧眼の見目麗しい人だと聞いたことがあったけど‥どんな顔してるのだろうか。
まぁノアより綺麗な顔立ちの人はいないのだろうけど。
慌てて頭を下げたせいでその顔を直接拝見できなかったのは残念だな。
それにしてもいつまで頭を下げてればいいのだ?歩く速度が遅すぎないか?亀か?
殿下の影が私たちの前で止まったのがわかった。
「顔を上げていいよ」
そう言われて、恐る恐る顔をあげる。恐らくノアの顔が見たいのだろう。ノアはこの国の、いや人類のヒーローになる男だ。
殿下の周りはとても煌めいたオーラが見えているように感じた。確かに端正な顔立ちだな。ノアには及ばないが。
‥‥ん?
何故か殿下の熱烈な視線を感じる。四天王を倒したのは私ではないのだが。
「勇敢なるノアの隣に立つ少女が、あまりにも美人だという噂を常々聞いていてね。一度その綺麗なお顔を拝見したいと思っていたんだ」
な‥んだと?なんだその趣味の悪い噂は‥。
「お、恐れ多いお言葉にございます‥」
「妖艶な長い紫の髪も、キリッとした眉も、力強い目力も‥全て素敵だね。なんていうのかな、凄く芯があって凛としているように見えるのに‥唇がぷっくりとしていて愛らしいな。柔らかそうだ」
「‥‥左様でございますか」
私は一体何を言われているんだろう‥?面と向かって事細かに顔面を評価されるのは前世を含めて初めてのことだから、どう反応すればいいのかわからない。ただひとつ言えるのは、少々‥いや、かなりの冷気を隣から感じるということだ。
目の前に殿下の手が近付いてきた。どうやら触れられそうになっているらしい。これはどう対応するのが正解なんだ?不用意に触られたくないが拒否したら不敬罪にあたるのか?
体を硬直させて戸惑う私の目に、とんでもないことが起こった。
「‥なんだこれは?!」
殿下の手が私の目の前で動きを止めた。まるで壁に遮断されているような‥‥‥って、お前か、ノア。何故今ここでキューブを出したんだ。
私はノアが作り出したキューブの中に入れられていた。
おかげで殿下の手は、透明な壁に阻まれている。
‥‥‥人前で古代魔法を使うなと‥あれだけ散々言っていたのに‥。
「殿下、発言をお許しください」
目をパチパチさせる殿下に対し、ノアが口を開いた。
「せ、説明してくれるのか?」
殿下の言葉にノアがコクリと頷いた。
「‥‥アデル・ウルフは、私と共に戦った四天王との激しい戦いの中で、四天王に呪いをかけられたのです」
いや、共に戦ってはいない。確かに残る3体は一緒に現地に行ったが、私はお決まりの如くキューブに入れられていた。
というか、さりげなく一人称を“私”に変えているな。状況を見て変えれるようになったんだな‥。大人になったな、ノア。
「な、なんと‥呪い、だと?!」
「はい‥。懸命に戦い抜いた末に、呪いが‥。
私以外の異性はアデルに一生指一本触れないという、呪いが‥」
「「な、なんだって‥‥?!」」
しまった。ノアのあまりの虚言に、殿下と声がハモってしまった。
「触れようとすれば、先程のように透明の壁が現れるのです‥」
皆が古代魔法を知らないことを逆手に取ったな!こいつ!
かといって今訂正しようものならノアが罰せられる可能性があるからそれもできない。いつのまに策略家になったんだ、お前は。
「そ、そうであったか‥。
は、早く呪いが解けるといいな」
「私もそう願っております」
いや、嘘つけ。どの口が。
もはや私は発言することができなかった。ただ冷や汗をかきながら引き攣った笑顔を見せるのみ。
ノアの活躍が国中で騒がれているように‥
この日を境に、勇敢なる悲劇の少女として私も一躍有名になったのである。
~誰も触れられぬ悲劇の美少女の肌は‥
勇敢なる英雄ノアのみが触れることを許される~
と、紙面に掲載されることにまでなったのだ‥‥‥。
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