第17話
ノアは結局、西の魔塔を制覇したあと、南、東、北、と全てを制覇してしまった。船や馬車を使いながら、1ヶ月内で全ての四天王を倒し切ったのだ。
勇者の力はまだノアに託していなかった。
ノア本来の力で成し得てしまったのだから凄すぎる。
勿論声は掛けたが、本人に断られてしまったのだ。
ーー数週間前。
「‥ノア、お前に託したい力があるのだが」
ノアの力だけで四天王を倒してしまえるほどに強いのであれば、もう託してもいいと思った。だから西の四天王を倒した後に渡そうとしたのだ。しかし‥
「もしかして、アデルの中にずっとある温かいやつ?」
「な、なぜそう思うのだ」
「温かい何かがあるのは最初から気付いてたよ。それに引き寄せられて俺はアデルのところに来たんだ」
なんと。そうだったのか。
勇者一族の血を引くからこそ、”勇者の力”を感じ取れるのかもな。
「‥‥これは、私が前世から持ってきた勇者の力。
お前の力になるものだ」
そう言って私は自身の胸元に手を置いて取り出そうとした‥のだが。
「あ、要らない。大丈夫大丈夫」
そう言ってあっさり断られたのだ。解せぬ。
私がこの力を授ける為にどれだけ躍起になっていたと思ってるんだ!
「な‥なぜ!!何故いらないのだ!!理由を言え!!」
私がそう言って迫ると、ノアは当然の如く言い放った。
「え。せっかくアデルが鍛えてくれたんだし、俺は俺の力だけで戦いたい」
「わ、私からの贈り物だぞ?!」
「うん。もし魔王戦で死にそうになったら貰う」
「は‥‥」
ノアはそう言ってにっこり笑った。
そして、呆然としたままの私に一言。
「ねぇ。そんなことより、前世から持ってきた‥って?」
にっこり笑顔のままのノア。何故だか圧力を感じるのだが。
「あ、えーっと。人は誰しも前世というものがあってだな」
「アデルはそれを覚えてるってこと?そのうえ勇者の力も持っていると。‥‥じゃあアデルは勇者に近しい人間だったんだね?だから勇者にも詳しいし、古代魔法なんかも使える訳だ」
「あ、ああ。そういう訳だ」
「‥‥で?ただのお嬢さんは勇者の力とか、たぶん縁がないよね?」
「それはそうだ。勇者の母になったものだけだぞ、縁があるのは」
「ふうん」
あれ?あれれ?氷点下?あれ?
急に室内が吹雪いているような気がするのだが気のせいか?
「ど、どうしたんだ?ノア」
「つまり、アデルは母だったんだね?勇者の」
え?え?とてつもなく怖いんだが。
「ぜ、前世は誰にでもあってだな?」
とりあえず落ち着かせよう‥。
「じゃあ夫もいたし、営みもしてた訳だ」
?!?!い、営み?!?!
「だ、だからな?前世は誰にでg/)?n_s」
話の途中で頬を挟まれた。おかげで間抜け面だ。
「俺にはアデルしかいないのに。アデルには俺だけじゃなかったってことだね?」
なんなんだその狂った発想は!
「は、なせ、手を」
「アデルの体に刻まれてなくても、記憶に刻まれてるんでしょ?」
狂気じみてる!やばいぞこいつ!!
私の言葉を聞く気になったのか、それとも私の間抜け面に嫌気がさしたのか、ノアは私の頬から手を離した。
「じゃあどうしたらいいんだ!仕方ないだろう!
前世の記憶は生まれた時からずっとあったのだから!!私に防げるものでもないし、私だってこの記憶の被害者だ!!」
凄まじい嫉妬心からか、ノアから目には見えない怒りの炎が吹き荒れている。
物心ついた頃からずっと意識していた、勇者の母としての生き様。謀られて無念にも焼け死んだあの日の憎しみや、生まれたての我が子の力を奪ったまま死んでしまった無念。
その負の記憶が全てアデルの脳に刻まれていた。苦しくて溺れそうな日々が続いていた。‥ノアと出会うまでは。
ノアは間違いなく私の希望となった。今度こそ、と。
‥‥‥‥だが、それは正解だったのだろうか。
揺るがなかった“勇者”への拘りが、地面が音を立てて崩れていくかのようにガタガタと揺れている。
アデルの人生は、前世の記憶が潰したのだ。
そして、私はそこにノアを巻き込んだ。
「‥‥‥苦しい記憶なの?」
ノアが小さく言葉を落とした。その声の小ささに負けじと、私も小さく頷く。
「‥‥我が子から勇者の力を抜き取った直後に‥裏切られ、焼き殺された。生まれたばかりの我が子の目の前で。恐らく我が子もそのあとすぐに殺されたのだろう」
「‥‥‥オズバーン家、の話?」
「あぁ」
「‥‥それって‥魔族と人類が共存することになった頃の‥」
「あぁ。恐らく私の首が魔王に差し出されたことだろうな」
「‥‥‥‥」
ここは宿屋の客室。
ノアは無表情のままだが、その手に握られているカップの持ち手が割れた。
「ノ、ノア‥‥?」
「‥‥アデルの前世でアデルに関わった人たちに凄く嫉妬する。腹が立って仕方ない。だからその前世から持ってきたっていう力だって受け取りたくない。‥‥でもその力がなければ俺はアデルの元に辿り着けなかったし、前世の記憶がなければきっとアデルも俺を必要としなかったよね。‥‥はぁ」
「‥‥‥ノア‥」
「よし、出発しよう。残りの四天王たちを倒しに行かないと」
「‥‥え?!」
「早く行こう。1ヶ月の間に終わらせるから」
「は?!」
こうして結局、この1ヶ月の間に四天王を全制覇するというとんでもない快挙を成し遂げたのである。
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