第13話


 今回はウルフ領内のみの活動ではなく、より魔族が出現しているという西の地域へ向かうことにした。

 まぁ今回も私たちが積極的にあちこちに動き回るというよりかは、精霊にお願いして魔族を招くという形なのだが。

 何せ私たちは今すぐ魔王の元へ向かうわけじゃないし、これはノアの修行の為の旅だ。ついでに蔓延る魔族を一掃できてラッキー、というわけである。


 ところで私がまたキューブ内で寝っ転がっているだけだと思っているのならば、それは違う。


「‥‥外せ」


「外さない」


「‥私は縛られる為にわざわざ旅に出たのか?」


「アデルは好き勝手させると何しでかすか分からないからね」


 ‥‥何故私は14歳の少年にこんなことを言われなくてはならないのか。育ての親は私ではないのか?ん?

 まぁ確かに‥食費や生活費を私が用意できたわけではないが。百歩譲っても“師匠”のような立ち位置である筈なんだが。


 ノアに古代魔法を教えなければよかったかもしれない。

勇者として育てる為に教えたのに、こいつは私を拘束する為にばっかり古代魔法を使う。


 今もそうだ。私はキューブの中で、手首と足首をグレイプニルで縛られている。


「私の手首と足首に痣が残ってもいいのか?」


「俺がそんなヘマするわけないだろ。魔力量のコントロールくらいできる」


 つまりふんわりと、でも逃がさない程度に縛ってますよということだな。

生憎、グレイプニルは術者の魔力が強ければ強いほど解きにくい。ノアは私よりも圧倒的に魔力を持っている為、私はこの光の紐を解くことができなかった。


 おかげでキューブの中で仰向けになり、日向ぼっこである。

もちろんこの間もノアは魔族を滅茶苦茶にしているのだが。


「‥あーあ、こんな風に直射日光浴びて‥誰かさんのせいで日焼けしてしまうな」


 自由が効かないことに対する文句を戦闘中のノアの背中にぶつけた。


「大丈夫だよ。アデルが目覚める前に塗っておいた」


「‥‥‥は?何を?」


「日焼け止め」


 大丈夫かこの男。


「そんなものどこで手に入れたんだ」


「ドレスとか色々買いまくってた時に貰った。お試しくださいって」


「‥‥」


 ノアはいつからこんな風になったんだろうか。

私はノアを勇者にすべく支配してやる!と息巻いていたのに‥。

 結果的に勇者街道まっしぐらにはなっているが、支配されているのは私ではないか‥?

 はっ‥‥。私が強く怒らないからか‥‥?そういえば私は‥今までノアを強く叱りつけたことがあっただろうか、否!!


 そうか‥原因は私か。私の教育の仕方が間違っていたのだ。

愛しい我が子と思って甘やかし続けてしまったんだな。


「悪かった、ノア」


「ん?何が?」


 大剣を軽々と振り回しながらノアは首を傾げている。ノアの周りで魔族の血飛沫が飛んでいるが、ノアは今日も天使だ。


「私が導き方を誤っていたようだ」


「は?なんだよそれ」


「お前を歪ませたのは私の責任だ」


「さらっと失礼な事言ってるな」


 でも‥‥いくら歪んでいようと‥勇者街道まっしぐらならば結果的に成功なのでは‥?過去にはノアのように歪んだ勇者もいたかもしれない。


「今から厳しく叱っても効果はあるのだろうか」


「それ俺に聞く?ちなみに俺、叱られるようなことしたことある?」


「‥‥無いと言えば無いな」


 私への異常な執着‥これは母として(ノアは私を母などと毛ほども思っていないが)叱りつける理由にはならないだろう。


 視点を変えてみるか‥

何故執着するのだろう‥‥‥。はっ。‥‥‥満たされていないのか?寂しさ、不安、孤独感‥‥?愛情不足‥‥‥???‥なんということだ、母として(ノアは私を母などと毛ほども思っていないが)今更その事実に気付くなんて。


 そういえば‥私がノアを抱きしめてあげたことがあっただろうか‥‥あっ。初めて出会った時のみだ‥‥。あの頃から8年間‥全然抱きしめてあげられていない!!!!!なんてことだ!そりゃ愛に飢えるに決まっている!!(注:アデルの偏見です)

 他に私がやらかしてしまっていることはないか?

愛のある母が子にしてやれること‥‥!私の母は?!なんと言ってくれただろうか‥!!


‥‥‥はっ!


ーーー愛してるわ、アデルーーー


「ぬああああああ!!!」


「どうした?!」


 私としたことが!私としたことがぁぁ!!

ノアを褒め、認め、大切だと言い聞かせてきた。しかし!!愛してると‥一言でも伝えたことがあっただろうか‥‥‥


「‥‥‥‥すまん。すまない、ノアっ‥」


「な、な、なんだよ。どうしたんだ突然」


 ノアは戦いながらも、私の様子に気が気ではない様子だ。


「‥お前に大切なことを伝えるのを忘れていた」


「だから、どうしたんだよ」


 ノアの眉が下がっている。心配してくれるのは有り難いがノールックで戦うんじゃない。敵を見ろ敵を。


 まぁ安心しろ、いま伝えてやるぞ。


「‥‥ノア、愛してる」


「うっ」





 ノアはこの日、初めて敵から攻撃を受けた。

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