第11話 ノアの隠し事
アデルが寝静まったあと、ノアはアデルの髪をさらっと撫でる。
宿屋の客室の窓を開けて夜風を浴びると、ノアの髪は風に揺れた。その拍子に、尖った耳がちらりと覗く。
ついでに牙を出してツノも出してやりたいが、それはアデルの奴隷になった日に封印した。出し入れ自由なパーツは、本来出していた方が魔力も増量する。
ただ、自分の主人となったアデルが魔族や半魔族を受け入れないだろうと、幼ながらに感じ取ったあの日から、髪に隠れる耳だけをたまに尖らせることにした。
「アデル‥」
ノアは自分が何者かわからなかった。
何もわからないまま魔族や半魔族の下僕たちに育てられ、初めて“父”という存在を見たその日に「捨てろ」と言われて投げ出された。
殺されないだけマシだったのか?むしろ何故殺さなかったんだろう。
自分の存在する理由が全くわからないまま、ただただ歩いた。
何故か吸い寄せられるように、俺はウルフ家の周りを歩いていた。ここから何かを感じていた。呼び寄せられるような、温かい何かを。それはとても心地よくて、俺はそれが欲しいと思った。
馬車に乗った知らないおじさんが俺を拾った。
「この家に入りたいのか?」
と言うから素直に頷くと、後日奴隷としてこの家に売られることになった。
突然部屋に入ってきたアデルを見て、俺は戸惑った。
俺が求めていた温かい何かは、アデルから発せられていたからだ。
この人に引き寄せられていたのかな?訳の分からないまま育って捨てられたけど、この人に会うために生まれたのかもしれない。
そう思った俺への第一声は「殺してやりたい」だった。反応からしてどうやら俺に対して言ったわけじゃなかったらしいけど、当時の俺はショックを受けたし、やっぱり俺は要らない子なのかと自分を諦めた。
だけどそれからのアデルのお持てなしは凄いもので、俺はすぐに気持ちを回復させることができた。アデルに毎日毎日「お前は特別だ」「お前ならできる」「私を信じろ」「お前は私にとって一番の宝だ」と言われ続けたせいかもしれない。
俺に何かを教えてくれるのも、一緒に遊んでくれるのも、隣にいてくれるのも、全てアデルだった。アデルの近くにいると心地よくて気持ち良くて温かい。だけどそれ以上にアデルといると満たされて幸せだった。
俺は魔族や半魔族に育てられた子供。
アデルが「なんだこれは。読解不能だ」と投げた魔族の歴史書は、俺には読むことができた。勿論ところどころ読めない場所もあるけれど。
ーーーーーー
人間達から差し出されたのは勇者の母の首だった。
だが、勇者の一族は2種類あり、オズバーン家が潰れたところでグレイディ家という分家が残っていた。
そこで魔王は人間に提案した。グレイディ家の娘を魔王に差し出せ、と。
娘を除くグレイディ家は全て討たれ、娘は魔王に差し出された。
娘のあまりの美貌に魔王は娘を寵妃に迎えたが、娘は抵抗し、己を氷漬けにする魔法を唱えた。
娘の魔力は凄まじく、魔王の炎で焼いてもけして氷は溶けなかった。
氷がやっと溶けたのは50年以上の月日が経った頃。
娘は抵抗する力も残っておらず、やがてここに魔王と人間の半魔族の子供が誕生する。
寵妃であった人間の名をメーベル、そして半魔族の子ども名を、ノアという。
ーーーーーー
幼き頃の自分の環境を思い返せば、あまり驚かなかった。
アデルははっきりとは言わないけど、勇者一族にかなり執着している。だから俺は、自分の身に“グレイディ家”の血が入っているんだと知った時に嬉しいと感じた。
アデルが喜んでくれるのではないか、と。
だけど、勇者一族に憧れを持っているのであれば魔王など敵でしかない。その魔王が父なのだと知られたら、俺はアデルにも捨てられるのかもしれない。そういう恐怖も感じるようになった。
アデル以外に俺の居場所はないし、俺の生きる意味もない。
アデルの為に生きて、アデルの為に死にたい。アデルの傍にずっといて、アデルのことを守っていたい。
だから、思う。
拒否されるかもしれない。拒否されたら、俺は死んじゃうほどにどん底に堕ちるかもしれない。
だけど、俺が魔王を討ったら。
俺が半魔族だって知っても、傍に置いてくれるかな‥?
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