第10話


 草や水、火に風‥様々な精霊たちを呼び、私の血や髪の毛と引き換えにウルフ領に魔族をがんがん送り込んでもらえることになった。(ちなみに出発は明日なので明日から魔族を呼びに行ってと伝えている)

 私の血や髪の毛を差し出すとノアに知られれば勿論めんどくさいことになるので契約はノアが入浴中に行うことにした。血は人差し指に針を刺すのみ。これにはさすがに気が付かないだろう。

 魔力を多く持つ人間の髪と血は精霊たちにとって堪らないご馳走らしい。


 次の日、泣きながらやっぱり辞めよう?と私の裾を掴む父の手を払い、私とノアはお試し旅に出発した。

 パーティを組める酒場は隣の領地にしかないうえ、ウルフ領でのみ活動するという条件を飲んでくれる人もいないだろうから、結局私たちは2人でのみ活動することになった。


 まぁ2人でも、この地で戦うには造作もないだろう。精霊たちに頼んだって連れてくるのはせいぜい雑魚魔族だろうからな。


 屋敷を離れて暫くすると、早速魔族たちが出現し始めた。

久々の実践かぁー、と少し気分が高揚したのだが。


「‥‥どういうつもりだノア」


 私はノアが作り出した魔障壁のキューブの中に閉じ込められている。


「危ないからそこに入ってて」


「はあ?」


 何をほざいているんだ、と魔障壁を壊そうとするが‥


「俺いま戦いの途中だけど、アデルがそれを破るなら戦いを放棄してまたキューブ作るよ」


「‥おい」


「敵に背中を見せてでも、アデルをキューブに入れることに専念する」


 なんだこいつ。一丁前に脅しているつもりか。

ノアも歳を重ねるごとに“怒る”だけだった交渉術が進化してきてるな。


「‥私が来た意味は?」


「俺のモチベーション」


「はぁ‥」


 お前は特別だと言い聞かせ、可愛がりすぎたか?

親離れできないのもどうかと思うぞ。もう思春期なんだから‥


「とりあえず、こいつら弱いから余裕!そこで見ててよ」


「‥‥‥はぁ」


 結局この日、私はノアの戦いを観戦して終わった。

いくら近いとはいえ屋敷に戻っては“旅”の要素もないので、町宿に泊まることにする。

 戦利品ともいえる魔族の体の部位は、もう袋に入り切らない量だ。明日朝一で関所に行って換金するか。


 次の日も、その次の日も。嫌がらせに精霊たちに血を多く与えて魔族の量を増やしても‥私はキューブの中でただ観戦しているだけだった。


「こいつらめっちゃ弱いけど思ったより数いるな」


 華麗な剣捌きで魔族を片っ端からギッタンギッタンにしているノア。

恐らく隣の領地の魔族たちまでこっちに来てるんじゃないか?

 関所で換金しすぎてだいぶ札束が増えてきたぞ。


「‥‥私は暇なんだが」


「アデルが敵と戦うなんて、俺が許すと思ったわけ?」


 結局こいつは異様に過保護なままなわけか‥


「‥‥私は信用されていないんだな」


「は?」


「その言葉の通りの意味だ‥‥」


 敢えて力なく言ってみる。時にはこうした駆け引きをしてみるのも悪くないだろう。だって私は、暇なのだ!


「信用してるに決まってるだろ。アデルは強いよ。

弱くないってもう分かってる。博識だし魔力もあるし」


 魔族の断末魔をものともせずにノアは敵の首を跳ね続ける。

今日だけで何百体目だ‥?ギャギャーとかギェェェー、という声をぼーっと聞き続ける私の身にもなってくれないかな。


「それならここから出せ。私だって戦いたい」


「だから、それは無理って言ってるだろ!」


「理由を述べよ。私が納得する理由を」


「し、ん、ぱ、い、だ、か、ら!!」


 こいつ‥!ふざけやがって!!

私は保護者として旅に参加してるのではなく、仲間として参加しているのに!これでは2週間キューブの中で寝腐って終わるじゃないか!!


 私は背後の魔障壁にそっと指先を通り抜けさせた。

ずっとここで精霊が待っていたのだ。血をよこせ、と。


ーー今までより少しは骨のあるやつを連れてきなさい。


 指先から直接血を吸わせると、精霊は満足して飛び跳ねていった。

見てなさい、ノア。雑魚魔族ではなく少しは強いのがきたら、お前も私の力が必要になる筈だ。


 ガシャガシャガシャ!


「こうきたかー‥」


 時刻は夜遅く。ノアに群がるのは相当な数のアンデッド達。要はただの骸骨だ。こいつら弱いんだよなー。


「なんだこいつら!ガシャガシャ崩れるけど死なないぞ!!」


 そいつらは頭蓋骨を砕くまで動きを止めないんだぞ。

はっはっは、どうやら出番がまわってきそうだなぁ。


「ほれ、早く私に助けを求めたらどうだ?」


 私がそういうとノアは明らかにむっと口を窄めた。

まだ14歳の少年だ。挑発には簡単に乗るんだよなぁ。


「なら、骨まで焼き尽くしてやる!」


「‥は?」


 私は思わず口を開けてその光景を呆然と見つめた。

これぞ地獄の業火。灼熱の炎は野原一面を焼け焦がし、真夜中の暗闇を激しく照らした。

 アンデッド達は当然の如く動きを止め、その身が灰になるのをただじっと待っていた。


 ここはウルフ領の中でも人里離れた地にある野原。大ごとになることはないだろうが、その炎はいつまで経っても私の脳裏から離れてくれなかった。


 安全な魔障壁の中、私が見たのはノアの底抜けの魔力‥。

ノアは一体何者だ‥?勇者一族の血を引いてるとしても、限度があるだろ‥。

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