第2話 初めての魔法
これまでの経緯を思い返した俺は、早速試したいことがあった。
「魔法、使ってみるかな」
魔法。小さい頃から憧れていた能力。その力を授けられたというからには使ってみたくなるのは当然だろう。
だが、魔法って具体的にどうやってやるんだ?女神様は魔法に関する直接的な知識は授けてくれてないみたいだし。
「あ」
俺は、書斎を覗いた時、壁際の本棚に何冊か本が収められているのを思い出した。
早速書斎に戻り、本棚を確認するとガラガラの本棚に数冊本が収められていた。
字が読めるかという疑問はあったが、数冊の背表紙に目を通して特段読めない文字はなかったし、いくつかの本を開いて目に止まった文を読んでみたが、問題なく読めた。読み書きの能力はしっかり授けられているようだ。
本棚には薬草や錬金術、魔法具の素材となるような魔物や鉱石などに関する本が並べられていた。そして、求めていた魔法に関する本も数冊収められていた。魔法書というらしい。
「こういう形で授けてくれたわけか。」
正直、知識は記憶としてだけ授けられるよりも書籍として残してもらえるのはありがたい。記憶で一度与えられたが後で忘れてしまいました、では困るからだ。いや、本当に女神様には感謝しかないな。
女神様のご好意に感謝しつつ、魔法初心者の俺に適した魔法書はどれなのか魔法書を見比べる。
基礎的な魔法が豊富に記載されていた魔法書があったので、それをまず勉強することにした。
ただ、魔法書を読み始めて思ったが、
「んー、これ、やりながらじゃないとイマイチ理解しにくいな…。」
やはり前の世界もこちらの世界も、技術的なものはやりながら覚えるのが一番のようだ。魔法書にも練習問題的な箇所があり、実際にやってみて覚えさせようとするものがほとんどだった。
「仕方ない。まずは魔法の杖からだな。」
魔法を使うのに必要な魔法具の中で、杖は魔力と使いたい魔法の知識さえあれば、基本的にはどんな魔法でも使える魔法具だ。魔力を持つ者にとっては一番汎用性の高い魔法具と言えるだろう。魔法書にも基本的に杖の使用を推奨した上で書かれていた。
俺は杖の素材となる木を探すため外に出た。
杖は好みの木を選び、好きな形に加工、魔法具師が魔力回路を形成すれば作ることができる。
俺は大樹の周りに落ちている枝で手頃なものを探した。長さが肘から指先までのくらいで太さは親指くらいの比較的まっすぐな枝があったので、それを使うことにした。
再び書斎の机に場所を移し、物置にあった小型のナイフで枝の皮や余計な小枝を削ぎ落とす。
「よし。ひとまず形はこれでいいか。」
皮を削り取ったただの棒切れだが、今回は魔法具作りも魔法の実践も練習だ。凝らずにシンプルな物にしておこう。
次に魔力回路の構築をする。魔力回路は、元々素材に流れている魔力の通り道を利用して構築する。この世界の生物や物質は、どれも少なからず魔力を吸収して成長する。その魔力の通り道を整備し、より人の魔力が流れやすいように加工する。この魔力回路の構築が魔法具師の腕の見せ所となる。
やり方は、素材に微弱な魔力を流し込み、その流れから素材本来の魔力の通り道を把握する。その後、利用できそうな道を太く、要らなそうな道を埋める。
実際にやってみると、この作業は繊細な魔力操作が必要だった。やはり初めてなので少し苦労した。だが、能力的な補正を授かっているからだろう。その後すぐにコツを掴み、魔力回路構築は無事に終えられた。
「ふう。こんなもんかな。」
ついに初めての魔法具の完成だ。作る前は作れるか少し不安だったが、実際に完成させることができて一安心だ。
それに魔法具作りは思いのほか楽しい。元々ものづくりは好きだし、魔法の杖にも憧れていたが、想像していた以上に杖の制作に没頭できた。これなら今後、魔法具師としての生活は続けていけそうだ。
初めての魔法具作りも終わり、次はいよいよ魔法の習得だ。
魔法書での勉強を再開した俺は、まず「火を起こす魔法」を覚えることにした。調理の時に役立つだろうと思ったからだ。
実際に魔法を使ってみるため、石畳のある竈門の前に移動する。流石に火を使う魔法を本のある書斎の中で使いたくない。
竈門の前で魔法書に書いてある詠唱を唱える。
「我、光を求める者、太陽の暖かさを求める者。其、全ての者の力の根源。全ての者の帰る場所。今、ここに我の魂の息吹を糧として其の姿を示せ。ファイロス。」
ボッ!
目の前に大きな「炎」が現れた。俺は驚いき、杖を放り投げて尻餅をついてしまった。杖の先から出ていたその炎はだんだんと小さくなり、やがてシュボと小さな音を立てて消えた。
「びっくりしたー。」
俺はロウソクに灯るような小さな火をイメージしたのだが、全く違うものになってしまった。魔力量の調整を間違えたのかもしれない。まあ、魔法具作りを除けば、本格的な魔法はこれが初めてだ。仕方ないか。次は送り込む魔力を極限まで少なくしてみよう。
やはり、送り込む魔力量で火の大きさが変わるらしい。次は無事に思うような火を出すことができた。
その後、何度も練習して無詠唱でもできるようになった。おそらく詠唱はイメージをより鮮明に思い起こすために効果があるのだろう。使い慣れると魔力が火に変わるイメージがはっきりとすようになり、無詠唱でも発現させられるようになった。
次は「水を操る魔法」を覚えることにした。魔法書を読んだ後、かまどの横にある水瓶の水を使って試してみた。これも念のため魔力を少なく送り込みつつ、球体の水を水瓶から取り出すイメージでやってみた。
「我、大地を流れる其を統べる者。其は命を育む根源。汚れを清め、身を潤す万物の母。堅固な岩をも砕き、全てを押し流す万物の父。今、我の魂の息吹と共に踊れ。ウォタロス。」
ちゃぽん。
コップ一杯程度の水の球が水瓶から浮き上がった。その後、徐々に魔力の量を増やしてみた。結局四◯リットルくらはあるであろう水瓶の水全てを余裕で操れた。おそらくまだまだ操る水の量は増やせるだろう。これなら川から水を運搬する際にきっと便利だ。おそらく女神様は家の近くに川を用意してくれているはずだ。この後行ってみよう。
生活に使えそうな魔法の次は「傷口を塞ぐ魔法」も覚えておいた。物置の中には傷口を塞ぐための針や糸が見当たらなかったので、念のため覚えることにしたのだ。一人で暮らすのだし、自分で傷口は塞げるようになっておいた方が良いだろう。
「いて…」
ナイフで左手の甲を少し血が出るくらいの傷をつけ、魔法で傷を塞いでみる。
「我、身のほころびを繕う者。肉の乖離は紡がれ、皮は新たな装いを見せる。その源は魂の息吹。魂の形へと戻る願い。今ここにその願いを現せ。ヒルロス。」
すると、徐々に皮が再生し、切れ目が徐々にくっついていく。細胞の再生を早回しで見ているようだ。
しかし、イメージと違うことがあった。それは血だ。イメージでは血が体に戻り、傷跡も綺麗になると思っていた。だが、実際には流れた血はそのままで、皮がその上を構わず覆っていった。傷が塞がると血豆の混じったアザのようになってしまった。触っても痛くはないが、今後綺麗に傷を治したい場合は傷口を綺麗に拭いてから治すことにしよう。砂や木の破片などが刺さった場合も、おそらく綺麗に取り除いてからの方が良さそうだ。
「そもそも、使うような事態にはあまりなってほしくないがな…。」
俺は魔法書を持って外に出た。攻撃魔法、防御魔法を使うためだ。まだ森についてよくは知らないが、恐ろしい魔物や凶暴な動物がいるかも知れない。自分の身は自分で守らねば。
攻撃魔法は「魔力の球を打ち出す魔法」にした。ファイロスのように魔力を別のものに変換するような工程を減らなくて良いので、素早く打ち出せると思ったからだ。それに小さい球を速く打ち出せば弾丸のようになりそうだ。戦闘以外でも森に食べられそうな動物がいたら狩りにも使いたい。
俺は物置から持ってきた薪を、五メートルくらい離れたところにおいて杖で狙う。
「我、魔を放つ者、力を持って空を切るもの。其は我の魂の息吹。我から生まれし力の化身。我、其を解き放ち、眼前の敵を穿つ。マルフォロス。」
ヒュン!パン!
見えなかった。杖の先に集まった俺の魔力が小指くらいの光の球となっているのまではわかったが、詠唱が終わった途端に杖の先から消えた。そして、薪に丸い穴が空いていた。
「こわあ…。」
自分が放った魔法ではあるし、イメージしていたことでもある。でも、実際にやってみると、その殺傷性の高さからしてこれは無闇に打っていいものでもなさそうだ。できれば、スーパーボールを目に見えるギリギリの速さで打ち出して木を凹ませる、くらいのも打てるようにしておきたいな。
イメージ通りにできるまで魔力量や魔力操作を微調整し続けた。結果、イメージ通りの威力にまで抑え、かつ無詠唱で打ち出せるようになった。
攻撃の次は防御、「魔力障壁を張る魔法」の習得だ。攻撃は最大の防御というが、命を直接的に守るのはやはり防御魔法だろう。一番素早く、正確に使えるようになっておきたい魔法だ。
大きさ、形、強度、厚さをイメージして、杖の先に魔力を込める。
「我、敵の矛を拒む者、敵の魔を払う者なり。我の魂の息吹よ、今ここに我を守護する強き壁を築け。マルウォロス。」
ビン!
杖の先に無色半透明の板が現れた。大きさは縦横一メートルほど。イメージしていたものと遜色はない。
物置にあった剣で端を叩いてみたがキンッという金属音とともに剣が弾かれた。片手で杖を構えながらだったとはいえ、聞き手で振り下ろした剣を弾くほどであれば安心しても良いだろう。不安な時は魔力をより流し込んで強度を上げればいい。
その後、何回かの練習で無詠唱かつ瞬時に障壁を張ることができるようになった。これでいざというときはある程度身を守れるだろう。
修めておきたい魔法は一通り習得した。これで生活に必要な、狩り、水汲み、治療、それに護身のための戦闘ができるようになったわけだ。これなら森に入っても問題ないだろう。
魔法の準備ができた俺は、水や食材を求めて森の中に入る決心をした。
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