第38話 大曽根さん争奪戦

 ギャルの気まぐれ、もしくは罪滅ぼしだと思っていたが、大曽根さんとの付き合いはその後も続いた。

 毎日一緒に昼食を食べ、時間が会うときは一緒に帰る。

 大曽根さんは完全に僕たちのグループの一員となっていた。


「ねー、ねー、今日カラオケに行かない?」

「いいですね。行きましょう」


 人と壁を作る花菜さんだが大曽根さんには心を許したらしく、気さくに付き合っている。


「よし、じゃあ四人で行くか」

「ボクはパス」

「なんでだよー、愛瑠。行こうよ!」

「そういうの興味ないし」

「ノリ悪いぞ、愛瑠」


 大曽根さんが脇腹をツンツン突っつくが愛瑠は知らん顔だ。


「分かった。歌下手なんですね」

「はぁ!? ボクの方が転校生より上手いから!」

「じゃあ聴かせてくださいよ。行かないなら下手確定です」

「ぐっ……仕方ないな」


 花菜さんに煽られ、愛瑠も参加することとなった。

 相変わらず愛瑠は花菜さんの挑発に乗りやすい。


 カラオケ店につくと、大曽根さんと花菜さんは隣に座り合い、早速曲を選び始める。

 愛瑠は入口付近に座り、フードメニューを眺めていた。


「あ、ねー、ねー知ってる? 黒瀬、学校辞めたんだって」


 大曽根さんがなんでもないことのようにそう言った。


「え!? そうなの!?」

「例の財布泥棒事件が先生にもバレて停学食らってたんだけど、そのまま自主退学したらしい」

「そうなんですか!? なにも退学しなくても……」

「まー、あれだけのことしたからね。友だちからもハブられたみたいだし、居場所がなかったんじゃね?」


 自業自得とはいえ、ちょっと気の毒な気もする。


「オーソネも黒瀬と付き合いあったんでしょ?」


 愛瑠は大曽根さんを『オーソネ』と呼ぶようになっていた。


「そんなにもないよ。てかウチ、学校で浮いてるし。友だちはだいたいバイト先とか中学の時のツレとか」

「そうなんだ」

「ウチの高校頭いーじゃん? なんか話が合わない人ばっかで」


 そう言われてみれば大曽根さんは学校でそれほどそれほど親しい友人がいないようだった。


「今はいるじゃないですか。話の合う友人」


 花菜さんがちょっとムッとした顔で拗ねると、大曽根さんはむぎゅーっと花菜さんに抱きついた。


「拗ねてるの? かわいい!」

「ちょっと! くっつきすぎです」

「九条! うちらのラブいところ写真撮ってー!」

「いいよ。ほら、こっち向いて」

「撮らなくていいですから、もう!」

「ほら、愛瑠も入りなよ。はやく!」

「仕方ないなぁ」


 いがみ合う二人も大曽根さんという接着剤的存在でくっ付けられる。

 僕たちはちぐはぐなようでバランスの取れたカルテットだ。


 カラオケの曲目もちぐはぐだ。

 流行りの曲を振り付けまでして歌う大曽根さんと、合唱コンクールの課題曲みたいなものばかり選ぶ花菜さんと、アニメソング縛りの愛瑠。

 みんなそれぞれの個性がある。


「ねぇ、蒼馬、ボクと転校生、どっちが上手かった?」

「比べるまでもないですよね、蒼馬さん。愛瑠さんが傷つくから答えなくていいですよ」


 二人はぐいぐい迫ってくる。


「ど、どっちも上手だよ。選曲も全然違うし、引き分け」

「あー、蒼馬。それ、一番ダメな答えじゃね?」


 逃げようとする僕を大曽根さんがからかう。

 絶対この状況を楽しんでるな。


「じゃあ大曽根さん! 優勝は大曽根さんです!」

「えー!?」

「私と愛流さんの勝負なのになんで大曽根さんなんですか!」

「そ、そりゃ大曽根さんが一番上手だからだよ」

「まー、それはそうだけど」

「なんだか納得いきませんけど、事実ですから仕方ないです」


 無理矢理ごまかすと大曽根さんは『貸しだからな』という顔で僕を見る。




 カラオケのあと、すぐに帰るのも名残惜しく、四人で近くのマックに移動した。


「あー、そういえばもうすぐ期末試験じゃね?」

「そういえばそうですね」

「うわー。凹むなー」

「テスト範囲決まってるんだからそこをやればいいだけでしょ?」


 愛流がきょとんとすると、大曽根さんが恨みがましい視線を向けた。


「よく考えたらうち以外の三人、成績優秀な奴ばっかじゃん!」

「大曽根さんはテスト苦手なんですか?」

「苦手なんてもんじゃないから! 絶対赤点で夏休みに補習だー。最悪」


 大曽根さんは頭を抱えて俯く。


「あ、そうだ! 花菜、うちに勉強教えてよ!」

「え? 私ですか? いいですけど教えるの下手ですよ」

「なんで転校生なのよ! ボクが教えてあげるのに!」

「いいの? ありがとう、愛瑠」

「私が最初に頼まれたんですから私です」

「転校生教えるの苦手なんでしょ」


 変な戦いの第二ラウンド開始だ。

 仲良くいがみ合う二人を見ながらしなっとしたポテトを齧っていた。





 ────────────────────



 とにかくなんでも奪い合う二人。

 蒼馬の次は大曽根さんの奪い合いです。

 喧嘩しつつも仲がいいんでしょうね!


 ちなみに大曽根さんも中学時代は当然成績優秀でした。

 しかしレベルの高い高校に入学したため周りについていけず、そのままギャル方向へと進んでいってしまいました。


 彼氏も何人か入れ替わりましたがどの人とも長続きせず、今はいません。


 そんな感じのキャラクターです。


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