第14話 借り物競走

 体育祭当日。

 練習の時は「高校の体育祭なんて」と冷めた態度だった生徒も本番が始まれば盛り上がっていた。

 クラス対抗で得点を競うので、余計に熱くなるようだった。


 僕が参加した、競走とは名ばかりのウケ狙い競技の『三輪車競走』ですら、かなり声援が飛んだ。

 練習の成果もあり一位になれたが、よそのクラスの男子はコケたりぶつかったりで大いに盛り上げていた。

 練習に付き合ってくれた駒野くんには悪いけど、この種目はあれが正解なのかもしれない。


「おつかれー、蒼馬! キミくらいだよ、あんなネタ競技で必死だったのは!」


 笑いながら愛瑠が僕の肩を叩く。


「一応あれだって競技だし。クラスの合計得点にも加算されるんだよ」

「コキコキとペダルを漕ぐ姿がかっこよかったなー」

「絶対馬鹿にしてるだろ」

「まさか。女子のみんなも彼氏にするなら三輪車上手な人がいいってキャーキャー言ってたよ」

「そんな声援聞こえなかったけどなー」


 普段は気だるそうな愛瑠も体育祭だからテンション高めのようで嬉しかった。

 クラスにはまだ馴染みきれていないけど、愛瑠が恐れていたほどの疎外感もないようなのでほっとしている。


 クラスの応援席を見ると梅月さんがこちらをジーッと見ていた。

 手を振るとスーッと視線を逸らされた。

 やはり学校で絡まれるのは嫌なんだろう。




 借り物競走が始まるとうちのクラスメイトがひときわ騒ぎだした。

 その声援の大半は梅月さんに向けられたものだった。


「頑張って梅月さん!」

「花菜ちゃん! 一位だぞー!」

「うわ、やべ。あんなダサいハチマキも梅月さんがつけてると超似合う!」


 みんな身を乗り出さんばかりの体勢を取り最前列で応援している。

 僕が入るスペースはなさそうなので人だかりがないところに移動して応援することにした。


 借り物競走はスタート地点から二十メートルほど先にあるボックスの中にあるメモを取り出し、そこに書かれたものを探してゴールに持っていくというルールだ。


 その時点ではなにが書かれているのかは走者以外誰にも分からない。

 だがゴール地点には体育祭実行委員がいて、借りてきたものが正しいかチェックする仕組みだ。


 書かれているものは様々らしく、ペットボトルを持って走る人もいれば、担任の先生を連れて走る人もいる。

 中にはなにが書かれていたのか知らないが、三角コーンを持って走る人までいた。


「お、次が梅月さんたちの番か」


 スタートラインの梅月さんは軽くポンポンとジャンプして気合いを乗せていた。

 なにごとでも全力でやる梅月さんは借り物競走でも手を抜かないのだろう。


「位置について、ヨーイ」


 パーンというスタートの合図と共に梅月さんはダッシュする。

 反射神経と加速力に優れる梅月さんはぶっちぎりの速度でボックスに辿り着く。


 カードを引いた梅月さんは驚いた顔をして辺りをキョロキョロと見回した。

 その間に後ろから来た走者に追い付かれてしまう。


 よほど無理難題が書かれていたのか、梅月さんはオロオロと辺りを見るばかりだ。

 いつも落ち着いている彼女らしからぬ狼狽振りを見て、ちょっと心配になる。


「頑張れ、梅月さん!」


 大きな声で声援を送ると梅月さんはこちらを振り返った。

 そして僕と目が合うと猛ダッシュしてきた。


「蒼馬さん、来てください」

「え? あ、うん」


 梅月さんは僕の手を取って走り出す。

 ものすごい速度に驚いたが、足を引っ張るわけには行かないので全力で着いていった。


 抜かれた走者も抜き返し、一位でゴールする。

 しかし判定で認められなければ借り物やり直しとなる。


「おお、噂の美少女転校生ちゃんが一着なんだ」


 審査員は駒野くんの彼女である『めぐるん』こと森田巡瑠さんだった。


「おや、借り物は九条くんなの?」

「なんかそうみたいです。なんて書かれてあるのかは不明ですけど」

「ほうほう。それじゃ確認させて貰うよ」


 森田先輩はカードを受け取り、驚いた顔をして梅月さんを見る。

 梅月さんは走った直後だからか赤い顔をして目を逸らしていた。


「へー? ほー?」


 森田先輩がニヤニヤ笑うと、梅月さんは憮然とした顔になる。


「な、なんですか?」

「オッケー、合格です!」

「やったね、梅月さん!」

「一緒に走ってもらい、ありがとうございました」


 見事一位となったのに梅月さんはあまり嬉しそうにせず、当然僕とハイタッチなどすることもなく、僕に一礼してから一位の列に並ぶ。

 借り物である僕はそのままグラウンドの外に出た。


 一体カードにはなんて書かれていたのだろう?


 その疑問は当然僕だけではなく、クラスメイトみんなも感じていた。



「ちょ、梅月さん、借り物なんだったの?」


 戻ってきた梅月さんに、みんなを代表して黒瀬さんが訊ねる。


「クラスメイトです」

「えー? それならキョロキョロ迷わずにクラスの応援席に来たらよかったのに! なんでクラスの席から離れていた九条くんと走ったの?」

「すいません。方向感覚がおかしくなってどこがクラスか分からなくなってしまって。慌てて辺りを見回したら九条くんが視界に入ったので」

「マジかよ! だったら俺もっと大きな声で応援すればよかった」

「梅月さんと手を繋いで一緒に走れるとか最高だよな!」


 男子たちは悔しそうに声をあげる。

 冗談にしてはみんな顔がマジなのがちょっと怖くて、僕はそろーっとその場から立ち去る。


「おい、借り物くん! そろそろ二人三脚だぞ! ボーッとするな!」

「おー、愛瑠。もう集合時間?」

「今から練習しておくの! ほら、早く」

「ちょっと待ってて。なに怒ってるんだよ? なんかあったの?」

「怒ってなんてないし!」


 振り返って梅月さんを見ると向こうもこちらを見ていたようで目が合った。

 軽く手を振ったが、すぐに視線を逸らされてしまったので気付かなかったかもしれない。




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 果たして本当に借り物はクラスメイトだったのでしょうか?

 その答えはすぐに分かることとなります!


 そこで『本当の借り物はなんだったのか?』クイズを開催します!

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 ちなみに本作が書籍化されなかった場合はプレゼントは無効となります。

 現在のところどの出版社様からの打診もありません。


 奮ってご参加ください!

 お待ちしてます!

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