第11話 それ、なんていうエロゲ?

 幾度も繰り返す練習の成果もあり、僕と愛瑠の二人三脚も息が合ってきた。

 まだそれほど速くは走れないが一歩も歩けなかったときから比べるとかなりの進歩だ。


「ようやく蒼馬もボクに合わせられるようになったな」

「はぁ? 愛瑠が僕に合わせられるようになったんだろ」

「いつもすぐやられてボクに助けられてるくせによく言うよ」

「それはゲームの話だろ」


 低次元な言い争いをしていると駒野くんが呆れ顔になる。


「お前らがお互いに相手に合わせられるようになったんだろ? どっちが上達したとかじゃなくて二人の息が合うようになったんだよ」

「ま、そういうことにしといてあげる」


 愛瑠はタオルで汗に濡れた髪を拭きながら憎まれ口を叩いた。

 短くざっくり切られた髪は濡れてハリネズミみたいだ。


 そんな僕たちの様子を下校途中の梅月さんが遠巻きで見ながら帰宅していく。


「よし、今日は実際に競走して速く走る練習をするか」

「競走って言われても相手がいなくない?」

「あたしと虎太朗のペアと競走するのよ」

「あ、森田先輩」


 駒野くんの彼女、森田巡瑠さんが体操服に着替えて立っていた。


「森田先輩じゃなくて『めぐるん』でいいよー」


 相変わらずのテンションの高さでやって来て、そそくさと自らと駒野くんの足をロープで括る。


「勝てるわけないっすよ!」

「あら、愛瑠ちゃん。そんなのやってみないと分からないよ。二人三脚に必要なのは運動神経よりコンビネーションだし」


 人見知りの愛瑠だが駒野くんや巡瑠さんとは仲がいい。

 愛瑠曰く、巡瑠と愛瑠で名前が似てるのも好感が持てるポイントらしい。


「そのコンビネーションの問題ですってば。駒野くんと巡瑠さんは小学生の頃からの仲なんですよね? しかもいまは恋人同士。ボクと蒼馬なんかじゃ太刀打ち出来ないっす」

「そう? 二人も息ぴったりだと思うけどなー?」

「全然ですってば!」


 愛瑠は笑いながら全力で否定する。


「駒野くんたちは二人三脚の練習してないんだから勝てるかもしれないよ」

「その通り。さあじゃあいくぞ。よーい……」


 ドンの掛け声で駆け出す。

 練習の成果もあり、僕と愛瑠のコンビは勢いよくスタートを切れた。

 一方駒野くんたちはゆっくりとしたスタートだったが、足並みが揃い出すと一気に加速してあっという間に僕らを抜かしてゴールした。


「あー、やっぱ負けた! 悔しい!」

「んはは! これが愛の力だよ、愛瑠ちゃん」

「いちゃつきに来たんなら爆発してください!」


 その後何度か競走をしたが二人には全く追い付けなかった。

 でも転ぶ回数はかなり減ってきた。

 下校時間となったので買い物に行くという駒野くんたちと別れ、僕は愛瑠と二人で帰宅する。



「で?」

「なにが?」

「その後許嫁とはどうなのって意味に決まってるでしょ」

「いきなり『で?』だけで分かるわけないし」

「も、もう『しちゃた』の?」


 愛瑠はモジモジしながらとんでもない質問をしてくる。

「しちゃったってなにを?」

「だからセで始まってクスで終わるアレ……」

「はぁ!? そんなわけないだろ!」

「許嫁なんでしょ。そういうことするんじゃないの?」

「ちょっと待って。愛瑠は許嫁をなんだと思ってるか教えて」

「そりゃ性処─」

「やっぱ言わなくていい」


 相変わらず愛瑠は突拍子もないことを口走る奴だ。

 愛瑠の住むマンションに到着したが、彼女は立ち止まらずに通りすぎてしまう。


「あれ? 帰らないの?」

「今から蒼馬の家に行くの」

「うちに!? なにしに行くんだよ?」

「童貞だと梅月さんに笑われるでしょ? 仕方ないからボクが蒼馬の筆下ろしをして上げるの」

「な、ななに言ってるんだよ、もう! そ、そもそも愛瑠だって、その、経験ないだろ」


 パニクってしまい、つい僕もとんでもないことを口走ってしまった。


「冗談だって。なに本気にしてるの? ウケる。本当は蒼馬が下手くそだからゲームを教えてあげるの」

「あ、いや、それはちょっとまずいかも」

「なんでよ? 一人暮らしなんでしょ。別にいいじゃん。そ、それとも本当に筆下ろしちゃう?」

「そうじゃなくて。実はいま、梅月さんと一緒に暮らしてるんだ」

「…………へ?」

「親に無理矢理決められて。一緒に暮らしているっていっても部屋は別々だし、食事のときくらいしか顔は合わさないよ」


 疚しいことがないのをアピールするが、愛瑠は呆然とし、聞いている様子がない。


「許嫁と同棲……それもうエロゲじゃん!」

「だから親に無理矢理させられてるだけで関わりはほぼないんだって」

「二人三脚とか、もうそんな次元じゃないし」

「なんで二人三脚が出てくるの!?」


 よく分からないけれど愛瑠はパニック状態だ。


「蒼馬のバカ! 難聴エロゲ主人公!」

「お、おい、愛瑠」


 混乱状態の愛瑠は意味不明な罵声を浴びせ、自宅マンションへと走り去ってしまう。

 家に遊びにこられなくなったのがよほどショックだったのだろう。

 以前はたまにうちにも遊びに来てたもんな……


 なんだか愛瑠にも悪いことをしてしまった。

 やはり許嫁は早く解消しないといけないな。





 ────────────────────



 相変わらずの愛瑠ワールド全開でした。

 書きながら笑ってしまってます。

 ストーリーはもちろん考えてから書いてますが、セリフなどは書きながら考えてます。

 地の文にするか、セリフにするか、も含めて。


 愛瑠の場合は何にも考えなくても次々とセリフが浮かぶので楽です。


 さて、ついに同棲を知ってしまった愛瑠。

 巻き返しを図りに来るのでしょうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る