第5話 ゲームの相棒
ネット通信のサバイバルアクションゲーム『ポート・ライト』をするのが僕の数少ない趣味のひとつだ。
梅月さんが来てからバタバタしてて暇がなかったが、今日は久し振りにプレイする。
ロビーに入ると既にフレンドの『毒虫』がログインをしていた。
このゲームは100人のプレイヤーがひとつの島に降り立ち、武器を拾って戦うゲームである。
僕はいつも通り『毒虫』とペアになり、コンビというモードでプレイする。
コンビは二人で協力しあって他のプレイヤーを倒すモードだ。
他のコンビ49組、つまり98人を撃破すれば優勝となる。
毒虫は相変わらず動きが早い。
素早く武器を拾い、茂に見隠れて敵を倒し、やられてしまった僕を蘇生し、見事優勝へと導いてくれる。
「相変わらず毒虫はすごいなぁ」
僕ももう少し上達をしなければ毒虫に迷惑をかけるだけだ。
翌日の放課後。
ホームルームの後に担任の松田先生が僕のところにやってくる。
「九条、このプリントを
「はい。わかりました」
「いつもすまないな」
「いえ。大丈夫です」
溜まったプリントを入れた封筒を受け取って手束
愛瑠は僕の住むマンションから近いところに住んでる。
「蒼馬さん、どこに行くんですか」
呼び止められて振り返ると梅月さんが僕の後ろをついてきていた。
「ちょっと届け物を頼まれて」
「知ってます。先生に渡されるのを見てましたから。誰ですか、手束さんって」
「梅月さんは会ったことなかったよね。手束さんはうちのクラスなんだけど、あまり学校に来てないんだ」
「名前は知ってます。手束愛瑠さんですよね。私が知りたいのはなぜ蒼馬さんが届けに行くのかということです」
「家が近いからだよ」
「へぇ? そんな理由で?」
用事を押し付けられて断れない僕を非難するように、梅月さんはジィーッと僕を見る。
「私も行きます」
「え? やめた方がいいよ」
「名前からして女子ですよね? 挨拶もしてませんし、それに許嫁としてどんな人なのか気になりますから」
「まあ女の子といえば女の子だけど……別に気にするような人じゃないよ。それに人見知りで会いたがらないと思うし」
「いいから行きましょう」
どうしても着いてくるというので仕方なく連れていく。
チャイムを鳴らすと愛瑠のお母さんが出てきた。
「あら九条くん、こんにちは」
「プリント持ってきました」
「いつもありがとう。助かるわ」
プリントを受け取ったお母さんは僕の後ろにいる梅月さんに気付き、小さく会釈した。
「転校してきたクラスメイトの梅月です。ご挨拶をさせてもらいに来ました」
「まぁわざわざ来てくれたの? ありがとう。二人ともあがって」
「お邪魔します」
リビングに通されたが当然愛瑠の姿はなかった。
「ごめんなさいね。あの子また部屋に閉じ籠りっぱなしで」
「ちょっと声かけてきます」
「ごめんねー、九条くん」
愛瑠の部屋の前に行きノックする。
「おーい、愛瑠ー。元気かー?」
「愛瑠なんていない。帰れ」
「あ、ごめん。毒虫ー。ナインテイルだぞー」
ゲーム内での名前で呼びかけるとガチャっとドアが開く。
「クソザコのナインテイルがなんの用だい?」
扉の向こうにはウサギのジャンプスーツ、つまり上下一体の被り物の服を着た愛瑠がいた。
自分で鏡を見て切ったような散切り頭のおかっぱ、顔のサイズに合ってない大きくヤボったい眼鏡というのも含めていつも通りだ。
「相変わらず手厳しいな」
「ふん。ボクのサポートがなければすぐヤられるナインテイルが悪いんだろ。だいたい君は──」
僕の後ろにいる梅月さんに気付いたのだろう。
愛瑠は目を丸くしてから慌ててドアをバタンと閉める。
「おい、愛瑠」
「誰なの、その女!」
「転校してきた梅月さんだよ。挨拶したいんだって」
「梅月です。はじめまして」
「うっさい! 帰れ! ボクの聖域に女子なんて連れてくるな、バカ!」
「せっかく来てくれたんだからそう言うなよー」
「しかも美少女で巨乳とかチートかよ! ボクはチーターが大嫌いなんだよ!」
「そりゃゲームの中の話だろ」
案の定へそを曲げてしまったようだ。
こうなってしまったら簡単には出てきてくれない。
「また来るから」と伝え、おばさんにも挨拶をしてから家を出た。
「なんなんですか?」
梅月さんが無表情で訊ねてくる。
「ごめんね、変な奴で。でも悪い奴ではないんだよ」
「そうじゃありません。『毒虫』とか『ナインテイル』というあだ名の方です」
「あー、あれはゲーム内のプレイヤーネームだよ。よく一緒にサバイバルゲームをしてるんだ」
「愛瑠とか呼び捨てにして、ずいぶん親しそうでしたね」
「ゲーム仲間だからね。そういう事情もあって僕が届け物をしたりしてる」
そう答えると梅月さんは疑わしそうに目を細める。
「可愛い子ですもんね」
「愛瑠が?」
「切れ長だけど大きくて綺麗な目ですし、肌も白くてとても決め細やかでした。歯並びもとても綺麗でしたし」
「そんな短時間でよくそこまで見てたね!?」
観察眼の鋭さに驚かされる。
「ああいう女の子がタイプなんですか?」
「だからそういうのじゃないってば。ただのゲームの友だちだから」
「ふぅん。まあ別にどうでもいいですけど」
梅月さんは歩く速度をあげ、スタスタと先に行ってしまう。
なんだかちょっと機嫌が悪そうだ。
────────────────────
眼鏡っ娘で僕っ娘という色々属性盛りだくさんの愛瑠の登場です。
さっそく対決気配が漂う二人。
今後の展開にご期待ください!
ここで梅月花菜さんメモ
梅月さんはほとんどゲームをしたことがありません。
子供の頃友だちの家で少しだけしたけど下手くそ過ぎて挫折しました。
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