第30話/共闘
鬼童膝丸が怒気を表しながら斧を真横に振るった。
斧の能力である『飛び鼬』の斬撃射出能力が発生し、俺は咄嗟に身を屈めた。
鬼童膝丸の能力を知っているのは、豹原も身を屈めて攻撃を回避する。
残る一人は地面を強く蹴って斬撃よりも上に飛んだ。
「テメェら全員ぶっ潰してやる!」
「おいおい!!鬼童のおっさんが出て来るなんて知らねぇぞ!!」
焦りの表情を浮かべながら豹原膝丸が叫ぶ。
「問題ない」
飛んだパーカーの人が、そのまま宙に浮かんでいる。
なんだ、何に乗っている?……あれは、目?
あの人の術具は、目を操る能力なのか?
パーカーの前チャックを開くと、タンクトップが見えた。
胸元には膨らみがあって、パーカーで隠した長い髪が伺えた。
女性だと思ったと同時、コートの中には芋虫の様なモノが巻き付いていて、その先端には人の唇が付いていた。
それが開くと、野球ボール程の大きな眼球が無数に飛び出て来る。
生々しい眼球だ。
血走っていたり、ぎょろぎょろと宙に浮かんで目を動かす眼球もある。
「静止の魔眼」
その内の一つが宙に浮いたまま、鬼童膝丸に視線を合わせる。
「ぐ、んんッ!?な、んだこりゃ」
すると、鬼童膝丸の体は途端に動かなくなる。
「光熱の魔眼」
宙に浮かぶ眼球の一つが鬼童膝丸に視線を合わせると、光の射線が飛ぶ。
その光は鬼童膝丸の肩元を貫通した。
「ぐ、ぅううううッ!」
まさか、眼球一つ一つに対して、効果が違うのかっ。
「如何に最強の暴れ馬である鬼童膝丸であれども、たかが物理能力が最強なだけの脳筋だ。行動を制限させてしまえば、こちらが上手」
「へ、へへっ、なんだよ、驚かせやがって」
「き、ぐ、ぬぅああああああッ!」
鬼童膝丸が腹筋に力を入れているのが分かる。
同時に、鬼童膝丸を拘束する彼女の表情が曇り出したのも分かった。
「……前言撤回だ。あわよくば辰宮陣営の駒を潰せると思ったが……無理にでも動こうとしている」
鬼童膝丸の動きを停止する眼球が血を流し始めた。
「当初の目的のみを優先する。早く、伏間を回収ッ―――!?」
「ぬぉおおおおおおおッ!」
静止された鬼童膝丸の体が動き出した。
それは、鬼童膝丸が自らの力で能力を破ったワケじゃない。
「ふぅうぅ……おい兄ちゃん、何手ェ出してやがんだ」
厳つい顔を俺の方に向けて、鬼童膝丸が睨む。
つまる話、鬼童膝丸が動けない原因である眼球を、俺がナイフで投擲して破壊したのだ。
「助けたワケじゃないです、逆に、助けて欲しいから拘束を解きました」
「あの目ん玉を潰す代わりにやっつけてくれってかぁ?」
槌と斧を構えて、鬼童膝丸が三つ編みにした顎鬚をなぞる。
少なくとも、鬼童膝丸が活動可能となれば、二人が逃げ出すと思った。
「おいい!どうすんだよぉ!鬼童が動き出したぞぉ!!」
「だからと言って逃げる事は出来ない、目標を達成するまで、私たちは逃げられないんだ……暈宕さんの様になりたいか?」
焦燥の表情を浮かべていた豹原はその言葉を聞いて泣きそうな顔を浮かべた。
あの残虐な門叶祝から命令を受けている以上、未達成に終われば、どうなるか想像したらしい。
つまり、あの二人は死ぬ気で俺を捕えに来るだろう。
俺は、鬼童膝丸に顔を向けて告げる。
「聖浄さんを助けたいんです」
鬼童膝丸は聖浄さんに執着していた。
折角の好敵手を他の誰かに潰されるのは許せないと思っている筈。
だから少なくとも、利害は一致している筈だ。
「……共闘ってワケか、いいぜぇ!その話乗ったァ!聖浄ちゃんはここじゃあ死なせねぇ!!」
俺は鬼童のおっさんの隣に立つ。
二対二の戦いが始まる。
「本当は一人で全員ヤッても良かったんだがな、聖浄ちゃんを早く治さねえと、だからな、早めに終わらす為に共闘した、本当は一人で全員相手に出来たんだぜぇ?本当だからな、いや、本当に」
何の言い訳なんだろうか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます