第31話/差出

「飛べェ!兄ちゃん!!」


槌型術具『噴き土竜』が地面を叩く。数秒後に俺の足元から衝撃が発生して俺の体が宙に浮かんだ。


「あ、わッ!」


床ごと俺の体が持ち上がる、俺は床を蹴って聖浄さんの元に向かう。


「聖浄の方にッ!」


パーカーの人が俺に向けて眼球を飛ばす。

落下する俺に合わせて瞳孔が輝き出す。


「させてたまるかってんだよォ!おらぁあ!!」


更に鬼童のおっさんが『飛び鼬』を振るって斬撃を眼球に向けて飛ばす。

鋭利な一撃に眼球は真っ二つになる。


「このジジィ!!」


唾を吐く勢いで豹原が高速移動して鬼童のオッサンの脇腹に拳を叩き付けた。

だが、体は曲がる事無く、にかっと、真っ白な歯を見せて笑う鬼童のおっさんはお返しにと握り拳を豹原に向けて叩き付ける。


「ぶべあッ!」


「どうしたぁ若いのォ!この程度でへばってんのかぁ!?」


「ひ、こ、この化けモノがァ!」


泣きそうな表情を浮かべて豹原が腕を構えた。

骨格が良く、筋肉も並外れた肉体ではあるが、鬼童の前では赤子同然だった。

俺は着地と同時に聖浄さんを起こす。

何よりも先に、聖浄さんの命が先決だった。


「大丈夫ですか、聖浄さんっ!」


腹部から血が溢れる聖浄さんは俺の声に反応して顔を向ける。


「大丈夫、です……致命傷は避けました……が、放っておけば……死に繋がる、がはッ」


来るしそうに血を吐く聖浄さん。

黒い手袋をした手で空間に押し込めると何かを探している。


「ここで治療をします……貴方は、逃げた方が」


「逃げませんよ、俺は」


俺の生き方は決めたんだ。

聖浄さんと迷宮を潰す、それが俺の生きる理由だ。

それを曲げる様な真似はしない。


「……では、申し訳ありません、伏間くん」


そして、取り出したのは、細長い棒だった。

鎖が先端について、別の棒と繋がっている、三つの棒。


「歩ける程度の治療を、行います。それまで、どうか……持ち堪えて下さい」


俺は術具を受け取って、更に聖浄さんは、自分の付けていた眼鏡を俺に掛けた。


「お願いします」


「任せてください」


俺は眼鏡を上げて術具を振り回す。

三節混型の術具『落陽』

それに加えて、術具の能力を確認する事が出来る術具を装備した。


「豹原ッ!そっちは任せた」


「なッ!鹿目ェ!お前も手伝えェ!」


鹿目と呼ばれたパーカーの人。

元々警戒はしていたのだろう。

だが、今は完全に俺の方に顔を向けている。


「あんたの相手は俺だな」


「悪手だぞお前」


空を飛ぶ鹿目を、俺は下から見上げる。

落陽の第一関節部分を振り回す。

そして地面に叩き付ける、『落陽』の能力は威力を爆破に変える。

地面に叩き付けた事で爆破が発生し、俺の体を上空へ押し上げた。


「其処にあるのは分かってるんだ」


眼鏡を押し上げる。

この眼鏡は遠距離であればある程に、術具の情報が少なく提示される。

だが、情報の全貌が提示されなくても良い。

其処に術具がある、と言う事が重要なのだ。

例えば、周りと同化する術具。

本来ならば見えないと言う事は大きなアドバンテージとなるだろう。

だが、この眼鏡を掛ければどうだ。

見えない術具の情報が開示される。

そして、開示する場所は術具の周辺に必ず展開する。

俺が飛んで落下する位置に、不可視の眼球がある事も情報開示で場所が特定された。


「十数個の不可視の目。俺も利用させてもらうよ」


眼球の上に乗りながら、俺は鹿目と対峙する。











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