第29話/暴力

一人は金髪の男だ。

靴が一本の針で支えられている様な形状で、それが術具であると言う事はすぐに分かった。

もう一人は厚めのパーカーを着込んだ灰に蒼を混ぜ込んだ様な色を持つ髪を垂らした性別不明な人だ。


「幸先良いねぇ、あの女ぁぶち殺せたのはよォ!」


金髪の男はそう叫んだ。

その下品な声色と、浅黒い肌を持つ男の顔は見た事がある。


豹原ひょうばら


奴の名前は、豹原ひょうばら峠獅たおし

俺が、門叶祝に監禁されていた時、俺は奴に躾と称して殴られた事がある。

つまりは、奴は門叶祝の刺客であり、恐らくは、俺を追ってきたのだろう。


「よう、伏間ぁ!お前生きてたんだな、暈宕さんは死んだって言ってたけど、門叶さんは、お前は生きてるつって、探してたけど……まさか、マジで生きてるとはなぁ!!」


奴は両手の掌を開いたり閉ざしたりして、拳を動かしている。

俺は、ナイフを構えた。奴は高速移動をする術具を持つ。

その手の動きに目を捉われてしまって、移動速度に後れを取る可能性がある。

一種の手品によるミスディレクションと言う奴だ。小賢しい真似をする。


「お前を半殺しに連れて行けばよぉ、俺ぁ新しい術具を貰えるんだわ。だから、俺が強くなる為に大人しくぶち殺されろよォ!」


そう叫んで、豹原が地面を蹴った。

バランスが悪そうな、針の先一点で宙を浮く靴型の術具は、豹原の意志一つで簡単に操作が可能。

俺に向けて接近すると同時に俺はナイフを振るう。


「ひょぉっと、あぶねぇなッ!」


接近した豹原の顔面に向けてナイフを振るうが、奴は顔を仰け反って回避する。

そして体をくねらせて体を左回りに移動する。なんて滑らかな動きだ。

靴の術具があの図体がデカいだけの輩の動きをスムーズにさせているのだ。


「しゃうあッ!」


真横に立つ豹原が俺の腹部に向けて体を浮かせる程の拳を叩き付ける。


「ッ!」


「ッ痛ェ!!」


だが、ダメージを負ったのは豹原の方だ。

俺の籠手型の術具『骨殻』の能力だ。

肉体の部位に集中する事で、肉体を保護する骨の甲殻を作り出す事が出来る。

骨の甲殻の面積が小さければ小さい程に、その耐久性と硬質性の密度が上昇する。


奴が俺を拷問する際に、必ず腹部を狙っていた。

そして奴は得意となって俺の腹部を狙うと思っていた。

腹部に集中した骨の甲殻に拳を痛めてしまった様子だ。


「くそッ!腹に何か仕込んでやがッ―――」


豹原が罵ろうとした口を開いて、そのまま閉ざす事無く開きっ放しになる。

俺は後ろを振り向いた。

奴の視線は明らかに俺ではなく、その後ろに向けていたからだ。


其処には………巨漢の鬼が居た。


「おい、何してんだぁ……聖浄ちゃん、倒れてんじゃねぇかよぉ……俺の好敵手にィ!なにしてくれてんだぁあ!!!」


鬼童膝丸。

怒りをブチ撒けて、この戦場に登場した。

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