第22話/悲願

「術具を作る術師、道具小路真改。彼は迷宮の製造を行いながら、術具を迷宮の各地にばら撒いている。その術具は、政府に提供する事で報奨金が発生する。つまり、われわれ十三家にとっての収入源となるのです」


政府に術具を……そうか。

普通の術師なら、迷宮に入った時点で出る事は出来ない。

けど、移動系の術師なら、その危険性も無く、術具の回収が出来ると言うワケか。

………ん?


「しかし、私の目的はあくまでも、道具小路真改の討伐です。彼を斃す事こそが、聖浄家の悲願でもあるのです」


「あの、聖浄さん」


俺は熱く語り始めていた聖浄さんの話に無理矢理入る。

話を遮られたので、聖浄さんは訝しげな表情を浮かべた。


「どうかされましたか?」


「俺、その真改って男に会いました」


暫く、聖浄さんが俺の目を見詰めていた。

そして、パンを口に咥えて噛み千切る。

もぐもぐと、パンを咬みながら、そして飲み込んだ。


「……嘘と言うワケではない様子ですね。何処で見たのですか?」


極めて冷静に、聖浄さんが聞いてくる。

俺は此処に来る前の事を彼女に話した。


「……不正と称して、移動されたのですか……そして、あの術具を貴方に補償として渡した、と」


「そうですね」


彼女は平らげた食器を置いて、何処か奥へと入って行く。

そして、彼女が持って来たのは、俺が補償として貰った術具だった。


「成程、貴方の言う事はウソではなさそうですね。……これ程に高性能な術具を持っていた事に。何かしらの事情があると思っていましたが……」


聖浄さんは、俺にその巻物の術具を返してくれた。


「え、これ」


「これは、貴方が持っていた方がよさそうです。それに……他の術具も後で持って来ましょう」


どういう心境の変化なのだろうか。

俺は首を傾げる事しか出来なかった。


「嬉しいんですよ、単純に」


そして聖浄さんは、俺の表情を読んでそう言った。

何故嬉しいのか、俺は彼女に聞くと。


「この世に生まれて二十一年。聖浄家は二百年も、存在するのか分からない術師を追い求めていました……全ては討伐する事、それ唯一つ。けれど……二百年。通常の人間であれば寿命で死んでしまう年数です。如何に多くの術具を作る事が出来る術師であろうとも、迷宮の最前線で死亡しているかも知れない……そうなれば、この二百年、私の先祖、及び私たちは、まったく無駄な道を進んでいたと言っても良い」


けれど、実際には、道具小路真改は居た。

まだ、彼女は夢を追い続ける事が出来る。


「光明です。だから、嬉しいのです」


俺は初めて、聖浄さんの笑みを見た様な気がした。

綺麗な人だった。笑顔がとても、似合う様な人だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る