第21話/朝食
体を洗い終わった聖浄さんは、別段恥じらいなど感じていない様子で平然としていた。
まるで自分の肌かなどなんら価値も無いと言いたげな態度だった。
「さて、伏間くん」
食事を用意してくれた聖浄さんは、俺の前にパンを置いた。
余り物であるのか、昨日と同じシチューであったが、御馳走には変わりない。
気怠く感じる程に眠り、腹が減っても飢えに対する心配をしなくても良い。
これが日常では当たり前な事だった。その当たり前な事が、こうして体感できる事に感動を覚えていた。
パンを頬張る俺に、彼女は今後どうするかと、聞いて来た。
「ん、ぐ」
口の中に入ったパンを飲み干して、俺は聖浄さんの言葉を聞き返した。
「どうかしたんですか?」
彼女は優雅に、木製のスプーンでシチューを掬うと、小さく口を開いて食事を食べる。その仕草は小動物みたいで可愛らしいと思った。
それを口に出す事は、人によっては失礼に値すると思い、それを言葉にする事は無かったが。
「はい、今後の事です。貴方が私の元で動くと想定しての話ですが……」
俺は最初からそのつもりだ。
術具なんて代物は、後から取れば良い。
この迷宮では、まず食料が一番の希少品なのだ。
それを出し惜しみ無く俺に差し出してくれる聖浄さんは、聖母の様な人と言っても良い。
「私は、この迷宮を管理する十三家の一人です」
十三家。
そういえば、そんな言葉が度々聖浄さんの口から発せられてたな。
「十三家ってなんですか?」
俺は分からない事彼女に聞いた。
「この迷宮は、ある術師が作り上げた施設です。そして、十三家はその術師を討伐する為に二百年前から代を重ねて来た討伐部隊とでも言いましょうか」
ある術師?それは誰だ。
まあ、この業界って奴には、俺にはあまり関連性が薄い。
だから名前なんて聞いても、ぴんと来る事は無いだろう。
「迷宮は、一度入れば出る事は出来ない。つまりは、入り口しか存在しません。術具を使役すれば、出られない事もありませんが……昔は、百名の術師を編成して、この迷宮に侵入させましたが……脱出出来た術師は一名しか存在しません」
そうなのか。
俺はパンを喰らいながら話を聞いていく。
「そして、政府は我々、十三名の術師の家系を、迷宮術師の討伐に適任しました。我々は、移動に関する術式を持ち、その術式によって迷宮の出入りが可能となったのです」
「だから十三家ですか……ちょっと待って下さい。それじゃあ、十三家の連中は繋がりがあると言う事ですか?」
そうならば、聖浄さんと門叶祝も、繋がりがある事になるが……。
「当然ながら、十三家が一つになって協力する事はありませんでした……この迷宮は、人を狂わす魔力を秘めています」
淡々と聖浄さんは教えてくれる。
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