第9話/暗闇

扉の中へと入る。

白い迷宮内とは違って、その部屋の中は暗かった。

決して、闇と言うわけではない。

部屋全体を黒色で塗りたくって、明かりだけを照らした様な感じに似ている。

そして、当たり前の様に自分の体が影にもならず、五体満足で表していた。


「白い迷宮だったから、今度は黒い迷宮か?」


そんな呑気な事を考えながら、俺は前へと進む。

地図を開いても、其処には何も描かれていなかった。

一旦、戻る事も考えたが、しかし、部屋の中に入ると同時に扉が閉まり、扉自体が闇の中へと消えてしまった。


部屋に入って数分。

俺はこれは罠だったのかも知れないと思い出した。

何故ならば、通常の迷宮内ならば地図が反応する筈だ。

だがそれがない。地図は黒色で染まっていて何も示さない。

そして、俺はが部屋に入ると同時に、扉が消えてしまった。

これは、一度中に入った人間を外に出させない様にする為だと考える。

現状、何もないとは思うが、この何もないことこそが罠の内容なのだろう。


出口のない道を延々と歩き続ける。

そして腹が減り、喉が渇き、飢えによって体は満足に動くこと無く、生きた木乃伊になりながら死に絶える。

つまりは餓死。それがこの罠の内容なんだ。


「あぁ、そうか」


俺は自らの考えに頷いた。

それは漫然とした余裕などではなく、死を感じ取ったが故の諦観だろう。

俺はそのまま、地面にしりをつける。

歩くのももううんざりとして、闇の中で俺は寝転がった。


「疲れた……」


もうどうにでもなれと言う気持ちだった。

同時に、俺は一応は死から抗い、足掻いた。

それだけでもう、十分に生きたと言えるかも知れない。

消化不良、あるいは不完全燃焼。

まだ俺は生存したい気持ちが大きいが、もう諦める他ない。

これで満足したと、そう無理にでも納得した方が良いだろう。


「……」


疲れがあった。

その疲れは身体全体に散っていて、鎖の様に体に巻き付いている。

そしてその鎖は地面に繋がっているのか、両手両足を動かそうとしても、鎖のせいで体を起こす事が出来なかった。


「……眠い」


体は痛みを発している。

頭の中は重たくて考える余裕すら無かった。


「……とりあえず、眠ろう」


俺が餓死するまで幾らか時間がある。

一度眠って、疲れを取って、冴えた頭ならば、この状況を打破する可能性もあるかも知れない。

あ、でも。もしも眠った時に怪物とか出てきたらどうしようか。

此処は俺以外存在しないと思っているが、油断をすれば怪物が出てきて俺を食らう可能性もあるが……。


「……まあ、いいか」


俺は諦める様に目を瞑り、そして眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る