第7話/回収

二時間ほど時間を労して三つの匣を回収した。

中身を確認する為に匣を開いてみる。

一つは籠手だった。半裸でズボンだけの服装である俺には都合が良い代物だ。

白く、何処か甲殻類を連想させる角張った籠手は上腕まで軽く覆う事が出来る。


「……」


動かすとズリ、と擦る音が発生する。

手首や肘と言った関節部分が擦れてなるらしい。


「もう一つは……」


朱色の三節混だった。

軽く振り回して見る。第二節部分を持った状態で振ればなんとか扱えるが、端側を持って振るうと壁に当たって扱い辛い。


「……瓶?」


それは青水晶で出来た容器だった。

透けて中身が見えるそれは、真っ白な濁り酒の様なものが入っている。


「飲み物かこれ?」


俺は一滴程出して毒見をしようとした。

蓋を開けると同時、内容物が出現した。


「うわッ」


白い液体が飛んで、地面に潜る。

蛇の様に細長い胴体を持ち、刃物の様に鋭い鰭が浮いていた。


「くッ!」


俺はこの匣に入っていたものが外れだと確信した。

これはモンスターだ。敵として三節混を振るった。

だが、地面を潜行する怪物に、三節混を当てても、ばしゃりと水を弾く音が鳴るだけで攻撃が当たっている様子は一切なかった。


「くそ……」


けど、そのモンスターは俺に対して興味も無さそうに地面を泳いでいる。

……気になるが、仕方が無い、このまま放置をしておく事にする。

一応、青水晶の瓶をベルトに挿して、出口らしき道を進んでいく。

本当はもっと匣があるが、それを回収する気にはなれなかった。


「此処、食べ物が無いんだよな」


俺は今、腹を空かせていた。

多分、今日一日だけならば餓死する事は無いだろう。

だが、二日、三日となって適度な食事が摂れなければ、体力も消耗して動けなくなってしまう。

それに、最低一回は戦うハメになるのは分かっていた。

だから俺は早々にこの迷宮の脱出を試みる。

更に三時間。『象』と言う文字の動きに注意しながら歩き続けた。


「……ようやく、出口前、だな」


俺は広い空間へと出た。

複数の白い柱が聳える空間。俺が来た道の反対側には、赤い扉が立っている。

そして、その中心には、白いローブを着込んだ小柄な人間が立っている。

その手には、真っ白な真珠を思わせる宝石をはめ込んだ杖を握っていた。


「……ボス、かな?」


俺は地図を確認する。

出口付近には、微動だにしない『象』の文字があった。

それが出口付近だから、恐らくはこの迷宮内でのボスを務めている輩なのだろうと思った。

別に避けても良かった。目の前にある扉以外にも、反対側に線の途切れた道があった。

だが、入り組んだ迷路で最短の道を選んだとしても、確実に三日は掛かる。

食料も無い状態で、もしもの事を考えれば、こっちへ向かう他無かった。


「よし、やるか」


覚悟を決めて広間へと侵入した。


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