第6話/移動
気が付けば、其処は六畳一間の空間じゃなかった。
目が眩くなる程に真っ白な通路。
黒も不純も一切ない床下は掌で触れるとザラザラとした感触で、塩を固めて作ったのかと思ってしまう。
周囲を見渡す。バットを持って思い切り振り回しても余裕のある通路には、右側と左側に別れていて、つまり一方通行、俺はそのど真ん中に居た。
「どこだ、ここ」
確か、俺が元の場所に戻るのは嫌だとごねたから、そことは違う場所に移動したのだろう。
しかし、何処へ転移させるのかくらいは教えてくれても良かったのではないのだろうか。
そう思った所で俺は思い出す。そうだ、俺にはあのダンジョン運営がくれた術具があったんだ。
「……これか」
俺は片手に握り締めた匣を見詰める。
土を掘り起こして発見した土器の様な色合いをした術具を握り締めてそれを振る。
確か、暈宕泰心が扱っていた時は、匣は観音開きとなって術具が出て来た筈だ。
「あ、出て来た」
匣が開かれて、出て来るのは真っ白な紙で纏まった巻物だ。
その巻物には『
俺はその巻物の封を解く。すると巻物は俺の周囲に浮き出して目元に地図が映る。
「変な所で自動だな……」
そう呟きながらも、俺は地図を確認する。
「うわ……なんだこれ」
地図はまさに迷宮と呼べる程に入り組んでいた。
指で軽くなぞってみる。右折、左折、直進、と数秒経たずで直ぐに行き詰まる。
「小さい頃に遊んだ事あるなこれ……」
よく知育絵本などであった指で進める迷路を思い出す。
あれよりも複雑な状態になっていて、正直地図が無かったら完全に迷って餓死する自信があった。
「待て待て……出口、出口は無いのか?」
通路を確認する。
出口らしい部分があるにはある。
地図の通路は線で記されていて、通路の外側には線が途切れていた。
恐らく、其処を目指せばこの迷路から抜け出す事が出来るのだろう。
「地図で確認して行かないとな」
幸いにも、自分の位置は記されていた。
『己』と言う字が書かれていて、俺が動くと『己』も動いてくる。
それ以外にも『象』と書かれていたものが動いていたり『匣』と書かれているものが不動を貫いている。
「この『象』って言うのは……あまり接触はしたくないな」
不明確な文字で、それが動いている。
モンスターを現わしている文字であるのかも知れない。
対して、この『匣』と書かれているモノは、積極的にとるべきだと思った。
『匣』と言えば『術具』を内包する『匣』の事だろう。
つまりは、それを手に入れられれば、戦力になる可能性があった。
「一先ず……この匣を回収しよう」
自分の位置を確かめて、『象』の動きを注意して、『匣』回収に努めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます