第4話/運営
玄関の先にある扉が開かれる。
「ただいま。とりあえず弁当でも買って来たよ」
そう言って来る男性の顔があった。
黒い髪を長く伸ばした、一見優男らしい顔をした男性だ。
黒色の寝間着を着たままだから、休日のおっさん、みたいな印象を受ける。
「……あれ?もう来たの?意外と早いじゃないか」
俺の方を見ながらコンビニの袋を置く男性。
困惑した様子で、俺は彼に聞いた。
「あんた、誰だ?」
その言葉に、男は袋の中からパックのトマトジュースを取り出してストローを差し込む。
「誰って、ボクは、ほら……
……いや、名前を聞いても、ピンと来ないんだけど。
「どっかの有名人ですか?」
小さな子供は袋の中からコーラを取り出して台所へと掛けていく。
一応は、客人として認識したのだろう。
俺の方にも、コップを出してコーラを注いでくれた。
「んー?まあ、有名人と言えばそうだけど……もしかして、正規なルートで来たんじゃないのかな?」
トマトジュースを飲む九十九さんは小さく息を付くと立ち上がる。
「真改くん。この少年は不正でゴールしてしまったらしい。処分すべきだとは思わないかい?」
「処分って、地盤が崩れて、落ちて来ただけなんだよ、俺は」
真改と呼ばれた子供が、ブラウン管テレビを起動して、旧世代のテレビゲームをピコピコと操作する。真っ黒な画面には、ミミズの様な線が刻まれていて、正直何をしているのかさっぱりだった。
「……あ、ほんとだ。不正じゃないよ、九十九さん」
どうやら誤解が解けたらしい。
俺は渡されたコーラを流し込んだ。
甘い、二週間ぶりに飲んだ飲料水は脳が溶ける程の甘さと、喉が焼ける様な炭酸の刺激、体中の火照りが冷却されるような冷たさに、舌鼓を打つ。
「たぶん、こっちの不手際。だと思う……」
「あぁ、そうなのか……では、どうしようか?」
「取り合えず、上層に戻して再走してもらうしかないよね?お詫びもあげないと……」
二人がそう話しているのを、俺は傍から聞くしかなかった。
「……いや、それよりも。このダンジョンから出してくれ」
彼らの会話を聞く限り、このダンジョンに関係する人間なのだろう。
ならば、彼らを使えば外に出れるかも知れない。
「うーん……どうしようか……いや、はっきり言おう。駄目だね」
と。黒髪ロン毛がそう言い切った。
俺は何故と問い質す。
「こちら側の不手際であるのは認めよう。しかし、その補償内容は此方が設ける。個人的感情で言えば、何故僕らが非才な人材の個人的希望を叶えなければならない?君は黙って、補償を受ければそれで良い」
それ以上は、何も言えなかった。
ロン毛の男の表情は余裕としている。
だが、その視線は違う。
胃袋を抉る様な感覚を味わうそれが殺意である事だと、産まれて初めて理解出来た。
黙殺された俺に、彼は立ち上がって笑みを浮かべる。
「では、運営からアイテムを授けようか」
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