第3話/部屋
「ぐ、ぅうぅ……」
取り合えず、腕に突き刺さる刃物を引き抜く。
銀色で飾り気の無い両刃の小剣は、俺の血が付着していた。
体を起こす。
かなり高い場所から落ちたと思ったけど、骨に罅が入ってる程度で済んだ。
多分、地面が柔らかかったのが幸いしたのだろう。
ゼリーの様に軟性のある地面は、青く光っている。
それはまるで蛍の光の様で綺麗に思えた。
「……」
上を見上げる。
俺が落下した筈の天井は、結晶が結成される様に、割れ目が塞がっていく。
これなら暈宕泰心が降りて来ても大丈夫だ。
俺は安堵しながらも、同時に恐怖を覚えた。
「今から一人、か」
出口は分からず、何処に潜んでいるのか分からない怪物に恐怖しなければならない。
幸先は悪く、足取りは重い。
もしかすれば、あの監禁部屋に居た方がマシだったのかと思う。
「……それは、無いな」
少なくとも自分が選んだ道だ。
あそこで無意味に死ぬくらいなら何かしようとして結局、何も果たせず死んだ方がまだマシだ。
「取り合えず、移動しないと、な」
出口を探す為に歩き出す。
けど、懸念する事がある。
それは、暈宕泰心が言っていた言葉。
『この迷宮に出口は無い』
そんなバカな事がある筈がない。
出口が無いのなら一体どうやって入って来たんだ?
入り口があるのなら、出口があるのは当然の事だろうに。
だから、暈宕泰心の言う事はデタラメだと俺は思った。
「……」
ブヨブヨとする地面を歩いて、三十分程経過した。
まだ一時間も経過していないが、ある事が起こる。
それは、俺の体の痛みが消えてきたと言う事だ。
俺の腕に突き刺さった傷は決して浅く無かった。
だがどういうワケか、治癒力が高くなって、今ではもう瘡蓋になっている。
俺の体がおかしくなったのか。
それとも、この部屋に来たから体が癒されているのか。
恐らくは後者なんだろう。
このダンジョンは、暈宕泰心の様な不可思議な能力を持つアイテムだってある。
なら、体を癒す効果を持つ部屋があっても不思議じゃない。
移動している内に、俺はその部屋から出る事の出来る扉を見つけた。
その扉は現代風にデザインされた扉で、このダンジョンの中では少し歪さを感じる。
「………」
ここしか道は無い。
だから俺は、扉を開いてその先へと入る。
薄暗い光とは違い、扉の先はなんとも懐かしい光に満ちていた。
それは電灯だった。天使の輪っかの様な電球が天井にぶら下がっている。
六畳一間の部屋の中、部屋の中心には卓袱台が置かれていて、その上に、プラモデルの様な材料でせっせと何かを作っている小学生程の子供が此方を見ていた。
「九十九さん?……え?だれ?」
それはこっちの台詞だった。
アパートの一室の様な場所へと来た俺は、困惑する他無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます