第2話/感電
両親は殺された。
友人も、恩師も、恋人も……。
人に、じゃない。
奴ら……唐突に現れた怪物たちに、だ。
大和市、和泉市、山城市。
この三つの都市を覆う不可視の壁は人を閉じ込める為だけに展開された。
人間と言う餌が逃げ出さない様に。
俺は、何も出来なかった。
怪物から逃げるのに精一杯だった。
日常が非日常へと変わってから一週間程が経過した。
公衆トイレの一番奥の洋式トイレで過ごしていた俺に、悪魔が訪ねて来た。
『見ぃつけた』
無邪気の中に邪気を忍ばせて、少女は俺に目を向けると共にその身柄を攫った。
そして、俺が連れて来られたのが、この光の届かない地下施設。
陰陽迷宮と呼ばれる其処は、ある人物が組織から逃れる為に作った迷路であるらしい。
安全地帯に建てられた蜂の巣の様な建物の中で、俺は監禁された。
それが俺を拉致した人間の名前だ。
銀髪を二つ結びにした少女。
赤い瞳と合わさってアルビノを連想させるその風貌。
白いワンピースを着込んだ彼女は肌の面積が多く、華奢な体をしていた。
『私の事覚えてる?知らない?なら思い出して、早くして』
監禁部屋から入ってくるメイド服を着込んだ女性。
柔和な笑みを浮かべて、その手に握り締めるスタンガンを俺に押し付けた。
『が、あッあッ!!』
『ほらほら、早くしないと、死んじゃうよ?死にたくないでしょ?ほら、思い出して、思い出して、ね?』
楽しそうに笑いながら、俺を甚振り始める。
電気が俺に走って、呼吸が出来なくなる。
一度流れたら、体が言う事を効かなくなって、まるで自分の体じゃ無い。
『ねえ、思い出した?』
三時間も電気を当て続けられた俺は意識を失い掛けていた。
だらしなく口から唾液を零して、現状を把握する事が出来ない。
『頭かな?頭が駄目なのかな?じゃあさ……叩けば治るよね?』
そうして、メイドが監禁部屋から離れると、今度は男が入ってくる。
握り拳を作って、何度も何度も、俺の頭を殴り続けた。
『ねーえー、早くしてよー、死んじゃうよ?……もー。しょうがないなぁ。じゃあ、今日は此処までにするね?』
顔面が腫れ上がって、前が見えない。
と言うか、もうこの悪魔が何を言っているのかすら分からない。
ただ。確かに聞こえた言葉がある。
『明日もこれ、続けるから、だから、早くした方が良いよ?』
この先から始まる地獄の合図。
俺は此処から逃げ出そうと誓った。
結果として、脱出するのに一週間も掛かった。
拷問に近い調教によって心が挫けてしまいそうだったが。
けど、結局は失敗だったのかも知れない。
俺はあの後、岩盤の崩れと共に落下した。
あのまま屈してしまえば、死なずに済んだのかも知れない。
これじゃあ、俺が毛嫌いする無駄死にだ。
そう思った。
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