4.身体的接触による強化
宿屋の一室。
俺とエルフの美少女ラティア嬢は、同じ部屋にいた。
「じゃあ次は、私がルーク様をお拭きしますね」
これだから無垢は困る。
「つまりだな」
「はい?」
「男の体を女が拭くのをな『ソープ』って言うんだ。ソープ。聞いたことないか?」
「ソープ。えっ、やぁん。私ったら、はしたないわ」
急に顔を真っ赤にして、そっぽを向いたと思ったら、顔を覆ってしまった。
よほど恥ずかしかったらしい。
ソープは売春の戯曲表現として、非常によく使われる。
本来の「男性の体を隅々まで女性が体を使って綺麗にする」という意味を知っている少女は少ないが、エッチなことをするという意味は知っているのだろう。
「ち、違います。誤解です。せ、背中だけ」
「ああ、だろうと思った」
「もう、分かってるなら、茶化さないでください」
「悪い悪い」
俺は上半身裸になると、桶に入れた新しいお湯をラティア嬢にお願いする。
俺の背中をラティア嬢がタオルで拭いていく。
たまにすべすべの素手でもペタペタ触ってくる。
非常にイケないことをしている気がしてくる。
「なんかラティア嬢の魔力を感じる」
「分かりますか、それがエンチャンターの能力です」
「ああ、暖かい魔力だ。美味しそうだ」
「私の魔力、美味しそうですか? ふふ、よかったです」
魔力にはなんとなく、味や匂いや温かみなどがある。
もちろん不味く感じたり、不快に感じる魔力も存在する。
特に本当に禍々しい魔族の魔力とか、吐き気がしそうなほど不味い。
その点、ラティア嬢は、イメージそのものの清純そうな魔力だ。
とても澄んでいて素直で、よい感情が伝わってくる。
一番近いのは聖水に含まれる魔力だろうか。
そう、神聖な気配を感じる。
これは確実に処女なのだろう。でなければここまで淀みが全くないのは、奇跡に近い。
「かゆいところとかないですか?」
「別にない」
「じゃあ、軽く肩、揉みますね」
今度は彼女が、力とそれから魔力を少し注入して、肩をほぐしてくれる。
なんか、ぽかぽかとしてくるし、めちゃくちゃ気持ちがいい。
今はどこにいるか分からないが、俺の妹も、エンチャンターの素質が少しあったので、小さい頃一緒に戦闘をしたことがある。
妹の魔力も澄み切っていて、とても綺麗だった。
あれにとても似ている。
基本的に小さい頃のほうが魔力に不純物が少なく、だんだん濁って汚れていく。
そのため魔力効率は年齢と共に下がっていくと言われている。
ラティア嬢はこの年齢の少女にしては、異常なほど汚れをこれっぽちも感じない。
どんな生活をしていたら、こんな綺麗な子ができるのか、不思議にすら思う。
俺は一見邪悪な黒魔術師だが、使う魔力は逆に澄んでいる綺麗な魔力を必要としている。
矛盾しているようだが黒魔術師は、黒水晶やドクロなどを装備して「邪を祓っている」のだ。
これは暗黒面に落ちた禍々しい魔力を使う魔族とは決定的に違う。
ほとんどすべての一般人はその辺を誤解しているようだが。
黒魔術師は、
気が付いたら朝だった。
マッサージの途中で寝てしまったようだ。
体を起こすと、すでに起きていたらしいラティア嬢が満面の笑顔で迎えてくれる。
「おはようございます。今日もいい朝ですね」
「ああ」
俺はなんだか釈然としないが、ラティア嬢の顔は非常にかわいい。
なんか、この顔さえ見れるなら、他の事はどうでもいいかもしれない。
「結局、昨日は寝てしまったか。すまない。ベッドに寝かせてくれたんだろ?」
「はい。思ったより大きくて、大変でした」
愚息のことではないのだろう。俺の体型の話だ。
紛らわしい言い方しないでほしい。
「それで、あの、男性って朝のご奉仕しないと苦しいって聞いたんです。しないと、いけませんよね?」
「どこのどいつだ。朝のご奉仕とかホラ吹き込んだのは」
「嘘なんですか? えっええっ」
ラティア嬢は朝から顔を真っ赤にして首を振る。
ハレンチな自覚は当然あるのだろう。
「いや、貴族などでならご奉仕は嘘ではないが、別に苦しいわけではない。構わなくていい」
「よ、よかったです。ちょっとまだ覚悟が……」
「ああ、すまんな」
「いえ、早とちりした私が悪かったです」
とても居たたまれない。
目が泳いでいる。お互い次の言葉が出ない。
「あのな、一つ誤解を解きたい」
「なんでしょう?」
澄み切った清らかな青い瞳で、俺を見つめてくる。
その瞳に吸い込まれそうだ。
俺に彼女のチャームの魔術が掛かっているのでは、と疑いたくなるほど綺麗だ。
「ご、ごほん。黒魔術師は、清涼な魔力を大量に必要としている。当たり前だが、処女、童貞は優先されるべき重要要素だ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうだ。だから俺は、ラティア嬢に、何もしない」
「そうなんですね。ホッとしました。でもなんだか残念です」
「できれば、俺のパートナーになってくれるなら、処女で清らかな体でいてほしい。もちろん心もだ」
「はっはい。が、頑張らせていただきます」
「頑張るというか、何もしないでくれ、変なことは」
「はいっ」
笑顔を再び見せてくれる。
なんだか、よく分からない信頼を得たようだ。
「それでは、朝ご飯を食べようか」
「お腹すきました~」
お腹をさする彼女はなんだか昔の妹みたいでかわいい。
朝食をその辺の屋台で済ませた。
冒険者ギルドの依頼板によれば、ゴブリンが繁殖しているという情報が載っていた。
俺たちは町を出て、その近くの森へと向かう。
「ゴブリンの巣なんですよね」
「そうだな」
「私、その、戦闘職ではないので、こういうの初めてなんですけど」
「大丈夫だ。俺は何回も経験がある」
「危険度ランクは?」
「冒険者ギルド認定難易度ランクCだな。パーティーでランクCであれば苦労するが倒せるレベルだ」
「私たちはペアですし、私は戦えないので、実質ソロですよね」
「そうだな」
とにかく早足で、現場に向かった。
日帰りで帰りたい。なるべく余裕を持って。
野営は何から何まで、面倒くさいのだ。
特にメンバーが少ないと、夜警が回せないので困る。
「えっとソロのランクBだと、パーティーのランクいくつ相当なんですか?」
「状況によって異なるので、何とも言えない」
「敵は今回は多数ですね。個々の脅威度はランクEですけど、数が多いです」
「そうだ。俺たち向きだ」
「敵が多いのに?」
「言っただろ、俺は範囲魔法で一網打尽にできる」
こうして現場付近に到着した。
すでにかすかだが、ゴブリンの悪臭がする。
実際の悪臭と、邪悪な魔力の臭いの両方を感じる。
目標を発見。
俺たちはゴブリンの集落を目前に、木陰に隠れている。
「作戦通りで頼む」
「といっても、背中から離れるな、ですよね」
「そうだ。いくぞ」
「はいっ」
俺が走る。
すぐ後ろをラティア嬢がついてくる。
身体能力は俺と同じくらいか、むしろエルフである彼女のほうが身軽だ。
エルフは筋力はそうでもないが全体的に素早い。
ラティア嬢は気休めではあるが弓を装備して背負っている。
クラスは自己申告制というか、自分で名乗るものなので、アーチャーのクラスでなくてももちろん弓を使ってもいい。
ただそれが一番得意ではないという認識なのだ。
ゴブリンの集落のど真ん中まで、一気に走ってきた。
「さあ、ゴブリンども、どこからでも来い」
『ゴブゴブ、ゴブゴッ』
『ゴブゴブ、ゴブッ』
『ゴブ。ゴブッ、ギャギャ』
ゴブリンたちが騒ぎだして、だんだん集まってくる。
「もっとだ。もっと集まっていいぞ」
すでにラティア嬢は緊張して固まって俺の背中に張り付いている。
背中が温かい。
それだけじゃない。すごく柔らかいものが左右に並んで2つ押し付けられている。
さらに「はぁはぁ」という息遣いが至近距離でする。
手は腰に回されていて、まるで恋人同士がじゃれて抱きついているみたいになっていた。
なんだか劣情を催すが、それどころではないので、邪心を振り払う。
「始めるぞ、ラティア」
「は、はいっ」
背中に押し付けられた体全体から、ラティア嬢の魔力が流れ込んでくる。
さらに俺の中の魔力と混ざって、制御されているのを感じる。
エンチャンターの効果だ。
「イノセント・エリア・ファイア」
ボワッと周囲が燃え上がる。
『ギョエエエ』
『グギャアア』
『ギャアアア』
広範囲のゴブリンたちが悲鳴を上げて、火だるまになっていく。
いつもの範囲の倍はある。威力もこの前より格段に高かった。
炎の業火は、すべてを焼き尽くして、後には灰と魔石だけが残される。
「すげえな」
「そうですね……すごいです」
俺はラティア嬢のエンチャンターの能力をほめたのだが、彼女は炎の範囲魔法をすごいと言っているようだ。
これは俺の力じゃない、彼女あっての力だということは、俺が一番知っている。
「よし、このまま続けるぞ」
「はいっ」
余計にギュッと背中にくっついてくる感触がある。
背中には柔らかいものが押さえつけられていた。
その感触がたまらない。
「プラチナ・エリア・アイスブリーズ」
俺はこの際なので、違う魔法も試してみる。
氷魔法だ。凝結魔法ともいう。
ゴーストには効かないが、森の中や船の上など火が燃え移りそうなときには、重宝する。
あとは火に耐性があるファイヤドレイクなどを相手にする時とか。
ゴブリンどもは氷漬けにされて、動かなくなる。
そして氷が割れる。中身ごと粉々に砕けたのだ。
もちろんゴブリンは粉粒になって、全滅した。
後には魔石が残るのみだ。
「すごい」
「ああ、そうだな」
生き残りのゴブリンたちは、それを見て怒り狂って余計集まってくる。
頃合いを見て撤退という思考はないのだろうか。
俺たちはこの作業を続けて、ゴブリンの集落は、すぐに全滅した。
今は落ちている魔石を拾い集めている。
「簡単でしたね」
「ああ」
ラティア嬢も少し離れている。
生き残りがいるかもしれないので、警戒は怠らないが、それでも戦闘中ほどではない。
「あの、私、すごいドキドキしました」
「そっか」
「はい。とても強くて、頼りになって、素敵だなって」
「惚れちゃったか?」
「はいっ」
「おいおい」
「冗談ですよーだ」
「そうか」
俺がそっけない態度を示すと、ぷいぷい頬を膨らませて不満顔になった。
そう言う表情もするんだな、なんだかかわいい。
一応これは怒っているのかな。
俺たちは依頼を完遂して、冒険者ギルドに戻った。
もちろんギルドにはラティア嬢に行ってもらう。
戻ってきた彼女はやはり金貨を袋で持っていたが、ちょっと焦っている。
「あ、あの、ルーク様」
「どうした」
「なんでも『ウォーロックのルークという人をドルボという人が探している』そうでメッセージは『至急パーティーに復帰してほしい』だそうです。お尋ね者になってました」
「あいつ……」
「どうするんです?」
「今更、復帰なんてするわけないだろ、アホか」
「そうですよね。別れ際の台詞なんて、ひどかったの覚えてます」
「だろ。今更戻れと言われても、もう遅いんだよ」
ラティア嬢の話によると『勝手にパーティーを抜けたルーク』の代わりにドルボは凄腕ランサーで埋めてみたものの、そいつは俺のようにうまく立ち回れず、すでに散々な目に遭っているとか。
それでなんとしても俺に復帰してほしいようで、周辺の街にお尋ね者ウォンテッドの依頼を金を掛けて早馬で出しているらしい。
さすがにAランクパーティーのお家騒動は、冒険者たちの格好の噂話らしく、ギルド内で話している人が何人もいたのを耳を立てて聞いてきたようだ。
「俺はソロいや、ペアのほうが好きだからな」
「好きって言いました? 私のことですか? そうですよね?」
「ラティア嬢の能力が好きだと言ったんだ」
「それって私が好きってことと同じですよね、もう一回言ってください。ラティア好きって」
「いいだろ別に」
「よくないです。むふぅ」
ラティア嬢のことは、ぶっちゃけ好きだ。
それも一目惚れだ。彼女は神秘的で聖女のようでとてもかわいい。
それからエンチャンターとしても、こんないい人材はいない。
公私ともに仲良くしていきたい所存である。
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