第5話 [帰り道と猫宮の気持ち]
猫宮さんを起こし、俺たちは今一緒に帰っている途中だ。
「猫宮さんって結構寝るの好きなの?」
「ま、まあ……。学校ではしないようにしてるけど、今日はなんだか気が緩んじゃって……」
帰り道の方角が偶然同じだったので、俺たちは並んで一緒に帰っている。
というか、あのクラスの陽キャ君はダメだったけど俺はいいのか? よくわからん……。
その後も話のネタが尽きることなく話し続けていたのだが、俺の住んでいる場所に着いてしまった。
「猫宮さん、俺が住んでるのここだから。また明日」
「え……? えぇぇぇ!?」
「ど、どうした?」
俺が住んでいるのはほんの少し高級なマンションだ。
そこを指差して言ったのだが、猫宮さんがものすごい驚いていた。
そして、次のように言われた。
「私もここに住んでる……」
「えぇぇ!?」
高校に入学すると同時にここに引っ越してきたけど、猫宮さんの姿を一切見たことがないぞ……。
「猫宮さんっていつも何時ぐらいに家出てる?」
「えーっと……。八時ちょっと過ぎくらいかな?」
「あぁ……それじゃあ会わないのも仕方ないな。俺は七時五十分ぐらいに出てるから」
まさか三大美少女の一人が俺と同じマンションに住んでいるとは思いもしなかった。
さらに詳しく聞くと、俺の一個上の階に住んでいるらしい。
本当になぜ気づかなかったのだろうか……。
「今日は色々あって疲れたな……。それじゃあ猫宮さん、また明日」
「うん、また」
俺が笑みを浮かべながら手を振ると、猫宮さんも小さく手を振り返してくれた。
猫宮さんが上の階って……。本当にびっくりしたなぁ……。
◇
—猫宮視点—
「ただいまぁ」
私は自分の部屋の扉を開きながらそう言った。
「お帰りー。今日弁当忘れたし、なんだかいつもより帰るのが遅かったわね」
リビングに行くと、お母さんが夜ご飯を料理していた。
お母さんは私と同じ色の髪と目を持っており、纏めた髪を肩に乗せて胸の前に出しているサイドポニーテールという髪型をしている。
ちなみにお母さんは私と違って胸が大きい……。
「うん、ちょっとね」
「ふーん?」
「な、何?」
お母さんはなぜかニマニマとした表情をしながら私をじーっと見つめていた。
「鈴香、今日いいことあったでしょ」
「え!? い、いや別に……。何にもなかったけど?」
「あとで詳しく聞かせてもらうわ♡」
「うへぇ……」
お母さんは結構勘が鋭い……。
私はそそくさと自分の部屋へと向かった。
「はぁ……。バレちゃったなぁ……」
私はベッドにごろっと転がりながらポツリと呟いた。
そして、空音くんに撫でられた頭を自分で触っていた。
(家族以外に触られるの嫌なはずなのに、なんで空音くんは大丈夫だったんだろう……? 嫌じゃなかった、むしろ結構……)
「って何やってるの私!!」
私はガバッと起き上がり叫んだ。
空音くんには今日何度も私の醜態を晒してしまった。
お腹鳴ったの聞かれたし、大声聞かれたし、寝顔見られたし……。ウガァーー!
なぜだか空音くんには撫でられてからといつもの、反射的に素の私が出てしまう。
明日は絶対猫被りを完璧にしてやる!
「あ……」
私はポケットに入れた紙切れの存在を思い出した。
(初めて授業中に手紙交換というものをした……! 昔からの夢が一つ叶った……!)
「えへへぇ」
私は自分でもわかるほど顔が緩んでいるのがわかった。
(空音くんも猫被りしてた時があったって言ってたし、もしかしたら私と友達に——)
私がそう思った瞬間、脳に昔のあの人たちの声が響いてきた。
『はぁ? あんたと私が友達? んなわけないでしょ!』
『勘違いキモすぎ』
『あなたなんか大嫌いなのよ』
「——うっ!!」
私は途端に胃の中の熱いものが喉を通る感覚がし、思わず口を手で抑えた。
「そうだ……。猫被りしなきゃダメだ……」
明日からはもう空音くんともいつも通りに対応しよう。
もうあんな思いはしたくない。
私は明日、絶対に猫被りを遂行すると誓った。
——そして翌日。
なんだか今日は朝早く起きてしまったので早めに学校に行くことにした。
マンションを出て少し歩くと、目の前には空音くんの姿が見えた。
(空音くんだ! でも今日こそはちゃんと猫被りを——)
もう一度自分に言い聞かせようとしたのだが、衝撃的なことが起こった。
「たーくん! だーれだ!!」
「うぉっ」
銀色の髪に、吸い込まれそうなほどの青い瞳。小柄でとんでもなく可愛い美少女が空音くんにあの「だーれだ」をしていたのだ。
「んなぁ……っ!?」
猫宮は、一瞬で猫被りができなくなっていた。
有言実行ならず!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
最後に登場した謎の美少女は僕が一番好きなキャラ。
ふふふ……。
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