第6話 [三大美少女の一人(男)]

 ピピピピッとアラームが鳴る音が聞こえる。


「う、うーん……」


 俺は蝶の幼虫が卵から出てくるように布団の中からウゴウゴと出てきた。

 そしてスマホをバシッと叩いてアラームを止めた。


「んぁー……」


 数秒ぼーっとしてから俺は顔を洗いに行き、それが終わったらパンを焼いて朝ごはんを食べた。

 ちなみに今の時刻は五時ちょっと過ぎだ。

 こんなに早く起きるのは自分の弁当を作るためである。


 ご飯を食べて完全に目が覚めたので、俺はキッチンに向かって弁当を作り始めた。

 弁当を作り終えたらあとはテレビのニュースを見たりして時間を潰す。


『今日は曇りのち雨になる予報です。傘を持って出かけましょう。さて、次に——』

「ん、もうこんな時間か」


 時計を見ると、もう七時五十ぐらいになっていたのでバックを持って出かけることにした。


「行ってきます」


 誰もいない部屋向かってそう言い、学校に向かった。

 学校を向かっている途中、後ろから走る足音が聞こえてきた。

 その足音はどんどんと俺の方へと近づいてきて、とうとう俺の真後ろから聞こえてきた。

 そして——


「たーくん! だーれだ!!」

「うおっ」


 俺の視界が真っ暗になった。

 後ろから手で隠されているが、その手は少しプルプルと震えていた。

 どうやら身長差があるようだ。


「誰でしょーかっ!」

「んー……。笹原さん?」

「それ誰?」

「俺の隣の部屋に住んでて、野菜くれる優しいおばあちゃん」

「僕はおばあちゃんじゃないよ! 僕だよ僕!!」

「まさかハンバーグのお師匠!?」

「ちーがーうー!!」


 流石におふざけが過ぎているな。

 そろそろ答え合わせと行こう。


「はいはい、“いーくん”だろ?」

「大正か〜〜い!!」


 手がどけられ、俺の視界が広がって光が差し込んできた。そして一瞬後ろにいるであろう人の手と、手首につけているリストバンドが見えた。

 後ろを振り向くと、俺の目を隠した張本人がニコニコしながら俺を見ていた。


「たーくん、おはよう!!」

「おはよ、いーくん」


 俺が「いーくん」と呼ぶ相手は俺の親友であり、名前は——“小鳥遊たかなしイリーナ”。

 前髪にヘアピンを止めており、その髪の色は銀色だ。さらに美しくてクリクリとした青い瞳、雪のように純白な肌、小鳥のように可愛らしい顔。

 見た目の通り、こいつはロシア人の血を引いている。

 母親が純血のロシア人で、父親がロシア人の血を引いた日本人だ。なのでロシア人の血が強く出たのだろう。


 男子十人がいたとし、こいつを見せたとしよう。そしたらおそらく十分の十人は可愛いと言わず、くそ可愛いと言うだろう。

 だがしかし、男である。俗に言う男の娘というやつだ。


 その美貌のせいでなぜか男なのに俺が通っている高校の三大美少女のうちの一人に入っているのだ。付いたあだ名は“雪の精霊”。

 果たして親友として誇らしいことなのだろうか……。


「今日は朝練がないからたーくんと一緒に登校しようと思って!」

「朝から元気なことだな」

「わっ! くすぐったいよ〜」


 いーくんの頭をわしゃわしゃと撫でると、満面の笑みを浮かべていた。

 身長差があるので、撫でるのにちょうどいいのだ。


 だがなんだろう……。さっきからものすごく鋭い視線を感じている。


 俺たちは気にせずに高校に向かった。





 クラスは別なので、いーくんとは俺のクラスの前で別れた。

 一応三大美少女のうちの一人なので、嫉妬などの視線が向けられると思っていたのだがそういったのは全くなかった。

 逆に兄弟や親子を見ているような温かい視線が俺たちに向けられているのだ。

 理由はわからない。


 だが、登校中に感じた視線はなんだか鋭かったから少し心配だな……。


 俺が机に座って頬杖をついていると、猫宮さんがやってきて、俺の隣の席に座った。


「おはよう」

「…………」


 俺が挨拶したが、無視されてしまった。


 ちゃんと猫被りできているようで何より……と思いたかった。できてない。

 俺が猫宮さんの方を見なくてもわかるほど隣からそわそわしていることがわかった。

 文字が具現化して俺の体にぶち当たっている感触がする。


 流石に気になるので、話しかけてみることにする。


「なぁ、猫宮さん」

「っ! な、何かしら!?」


 おお、今日はまだなんとか猫被りできているぞ。


「さっきからなんかそわそわしてたけど、どうしたんだ?」

「え!? べべべ別にそわそわなんてしてないよ!!」

「猫宮さん……被れてないよ」

「はっ……。んんんん!!」


 そんなフグみたいに頬っぺたを膨らませながら涙目で見られても……。


「そんで? どうしてそわそわしてたんだ?」


 今はまだクラスに人が少ないし、周りに人がいないのでコソコソと話せば問題なし。


「えぇーっと……。その、あ、朝に空音くん見たんだけど、一緒に歩いてた女の子って誰かなぁ……と……」

「ん? いーくんのことか?」


 猫宮さんはあいつが女だと勘違いしているのか……。


「そ、その人とはどんな関係!?」

「親友だな」

「親友……。友達……。いいなぁ」

「ん?」


 猫宮さんが何か呟いた気がしたが、声が小さすぎて聞き取れなかった。


「今なんて?」

「なんでもない!」

「あ、言っておくがあいつは男だからな?」

「——……ん?」


 ポクポクポク、と何秒かフリーズした後、小声で叫び始めた。


「えぇぇ!? いや……あんな可愛い子が男子!?」

「ああ、ちゃんと男だぞ」

「男装してるって可能性は……」

「いや、それはないな」

「なんでわかるの?」

「昔っからの仲で、一緒に風呂入ったり寝たりしてたからなぁ」


 それを聞いた猫宮はまたしても数秒フリーズした。

 そして彼女は心の中でこんなことを叫んだ。


(男の子同士でそんなことするの!? 友達同士だったら一緒にお風呂入って一緒に寝たりするの!? カップルとかでももっと段階踏まなきゃいけないんじゃないの!? わ、わからない……)

「お、みんな来たからそろそろやめとくか」


 結局、猫宮の疑問は残ったまま話が終了してしまった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 ロシア人と日本人のハーフというキャラを作ったことがないこのカエデウマ。名前の付け方があっているかわからないです……。


・小鳥遊イリーナ-小鳥系男子


 ちなみにイリーナくんは北海道に分布している“シマエナガ”という超絶可愛い白い小鳥をイメージして設定しました。

 そのシマエナガは“雪の妖精”という別名があり、そこからイリーナくんの異名を“雪の精霊”にしました。


 僕が大好きな男の娘キャラです。

 ほぼ全ての自分の作品に男の娘キャラを出すほど僕は男の娘が大好きです。

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