第16話

 エイダが自室でくつろいでいると、ハワードから手紙が届いた。


「レイラが手入れをしていたバラ園のバラが枯れてしまい、ビリーが落ち込んでいる。何とかならないか、ですって? それはお可哀想ですわね」

 エイダは家から馬車で王宮に向かった。


 城に着くと兵士がエイダを見つけ、城の中に案内された。

「エイダ様、お忙しいところ申し訳ありません」

「いいえ、ハワード様。ビリー様はどちらにいらっしゃいますか?」

 エイダの言葉を聞き、ハワードはビリーの部屋に案内した。


 ハワードはドアをノックするとビリーに話しかけた。

「ビリー、出てきてくれますか?」

「……はい、お兄様」

 部屋から出てきたビリーはしょんぼりとして元気がなかった。


「こんにちは、ビリー様」

「貴方は?」

「私、エイダと申します。今日はバラ園のバラを咲かせに参りました」

「え? お母様のバラをですか? もう枯れてしまっているのに」

 ビリーは疑うようにエイダの顔をじっと見つめた。


「バラ園はこちらです」

 ハワードの案内で中庭のエイダとビリーはバラ園に向かった。

「ここです」

「まあ、これは凄いですね」


 バラ園は、手入れが行き届いていた頃の面影を残していたが、バラがしおれていた。

「それでは、ビリー様。これから見ることは三人だけの秘密にして下さいませ」

「?」

 ビリーは不思議そうな顔でバラ園とエイダを見つめている。


「それでは、バラたちよ、元気を取り戻しなさい……ヒール!」

 エイダの手が明るく光ると、その光がバラ園中に広がった。

 そして、バラが元気よく咲き誇った。

「うわあ、お母様が手入れをしていた時と同じだ!!」


 ビリーは喜んでバラ園の中を走り回ったり、バラの匂いを嗅いだりした。

「ありがとう、エイダさん」

 ビリーの顔に笑顔が浮かんだ。

「ありがとう、エイダ様」

 ハワードもエイダに微笑んだ。


「これからは、バラ園の手入れも庭師にお願いするよ」

「私も何かありましたらまた声をかけて下さいませ」

 エイダは咲き誇るバラ園を眺めて、少し切ない気持ちになった。

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魔力が強すぎる令嬢は森の奥でこっそりと育てられました 茜カナコ @akanekanako

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