第13話
朝になった。
エイダは城に向かった。
城に着き中庭を進むと、扉の前に一人の老紳士が立っていた。
「おまちしておりました、エイダ様。私、執事のゴードン・ヒューズと申します」
「エイダ・マクミランです。よろしくお願い致します」
「ハワード王子がお待ちです。お着替えを済ませて来て下さい。エイダ様には特別に個室を用意させて頂きました」
「ありがとうございます」
エイダはゴードンの後について歩いて行った。
すこしすると、緑色の扉の前でゴードンは立ち止まった。
「こちらがエイダ様のお部屋になります」
「はい、分かりました」
エイダは扉を開け、中に入った。
テーブルと椅子、ベッドがあり、窓からは中庭が見えた。
「それでは、お着替えが終わりましたら扉をお開け下さい」
ゴードンはそう言って、エイダの部屋の扉を閉めた。
エイダは持参したメイド服に着替えると扉を開けた。
「お待たせ致しました」
「それではハワード王子の元に向かいましょう」
「はい」
ゴードンの案内で応接室に向かった。応接室では、ハワードが数人の貴族から話を聞き、なにやら書類を書いていた。
「ハワード様のお仕事がおわりましたら、お声がけさせて頂きます」
「はい」
エイダが仕事をしているハワードを見るのは初めてだった。真剣な表情に、胸がときめくのを感じた。やがて、話し合いは終わり、ハワードは書類にサインをした。
「ハワード様、エイダ様がお見えになりました」
ゴードンが言うと、ハワードは初めて気付いたように振り返った。
「ああ、お待たせしてしまい申し訳ありません、エイダ様」
「いいえ、お仕事されている姿、素敵でしたわ」
エイダは微笑みを浮かべた。
「これから、私の専属メイドとして働いて頂きます」
ハワードは優しい表情で言った。
「専属ですか?」
「はい」
「具体的には何をすればよろしいのでしょうか?」
エイダは首をかしげて、ハワードに訊ねた。
「私の身の回りに不審なものがないか、殺意を持った者がいないか、見張っていて欲しいのです」
「わかりましたわ」
エイダはそれから、ハワードの後を着いて回ることとなった。
一番神経を使ったのは食事だった。
エイダは魔力が強いだけではなく、森の暮らしの中で毒や薬の匂いにも敏感になっていた。
「それでは、エイダ様。ハワード様の食事は貴方が厨房から運んで下さい」
「はい、ゴードン様」
エイダはハワードの食事を運んだ。毒の匂いはしなかった。
「それでは、神に感謝して、今日の食事をいただきましょう」
王の祈りの言葉の後、皆で晩餐を囲んだ。
エイダはハワードの食事の様子を見ていた。
「ハワード様! そのフィンガーボールから毒の香りがしています!」
エイダは慌てて、ハワードの手を払いのけた。
「ありがとう、エイダ」
ハワードは声を大きくしていった。
「このフィンガーボールに触れたのは誰だ!?」
ハワードが立ち上がって使用人達を見た。
「まだ、毒が入っているという証拠はありませんよ、ハワード」
継母が言うと、ハワードは席について渋い顔をした。
王はまるで何も起きていなかったかのような表情で食事を続けている。
「あの、毒が入っていると思います。証拠は、いまお見せ致します」
エイダはそう言って、フィンガーボールの上に魔方陣を書いた。
フィンガーボールに入っていた水が、黒くよどんだ。
「たぶん、毒草から取った毒ですわ」
「そんなこと、まやかしでしょう?」
継母は食事を続けた。
「ごちそうさまでした」
ハワードは食事を中断し、席を立った。エイダは慌ててその後を追った。
「ハワード様、いつもこんな調子なのですか?」
「はい。お恥ずかしながら」
ハワードは疲れたように笑った。
「ハワード様、少々お待ちください。厨房から食べられるものを持ってきますわ」
「ありがとうございます。エイダ様」
エイダは厨房で一人分の食事を作って貰うと、ハワードの部屋に運んだ。
「失礼致します」
「どうぞ」
ハワードの部屋には本棚が沢山あった。そして、神話のワンシーンが書かれた絵が飾られていた。
「お食事をお持ち致しました」
「ありがとう。そこに置いておいてください」
エイダは食事をアンティーク調の机の上に置くと、部屋を出ようとした。
「エイダ様、城の中は私の敵が沢山居ます。エイダ様もお気をつけてお過ごしください」
「はい、気をつけますわ」
エイダは、肉親にも冷たくされているハワードを可哀想に感じた。
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