第8話
「ハワード王子、舞踏会は中止ですか?」
「いいえ、行いますよ。今日は特別な日ですから」
ハワード王子が立ち上がり、大きな声で言った。
「大丈夫です、怪我人は出ていません。舞踏会を続けましょう!」
ハワードはそう言った後、エイダに手を差し伸べた。
「一曲踊りませんか?」
冷静なハワード王子に、エイダは動揺した。
「今、命を狙われていたんですよ? ダンスなんてしている場合ではないのでは無いですか?」
「いつものことです」
ハワード王子は少し寂しげに微笑んだ。
エイダはハワード王子の後について、大広間のシャンデリアから遠ざかった。
「それにしても、ますます美しくなられましたね、エイダ様」
「ハワード王子、皆様が見てますわ」
「貴方の黒髪と黒い瞳に、見とれているんですよ」
ハワードのダンスは優雅で、なめらかに滑るような巧みなリードだった。
エイダもハワードのリードに合わせてくるくると回るたび、ワインレッドのドレスが優美にひらめいた。
「まあ、素敵なお嬢様が王子様と踊っていらっしゃるわ」
「どこの令嬢かしら? あまり見たことがないですわね」
ひそひそ話がエイダの耳に聞こえてくる。
「ハワード王子、注目を集めていますよ?」
エイダは少し怖じ気づいた。
「胸を張って下さい、エイダ様」
ハワードは曲が終わると、エイダをテラスに誘った。
「こちらへどうぞ、エイダ様」
「ハワード王子……」
「ハワードで結構です」
ハワードはアイスティーを二つ持ってきて、一つをエイダに渡すと、もう一つをゴクリと飲んだ。
「エイダ様には、15才の頃、怪我を治して頂きましたね」
「ハワード様はあのとき、森で何をしていたのですか?」
エイダは森でハワードを助けた時のことを尋ねた。
「狩りをしていたのですが、一緒に居た兵に間違えて太ももを射貫かれてしまったのです」
「まあ、それは怖いですわね」
エイダもアイスティーを一口飲んだ。
「エイダ様は何故、魔法が使えることを隠していらっしゃるんですか?」
「私、やっかい事に巻き込まれるのが恐ろしいのです」
エイダは素直な気持ちを言葉にした。
ハワードは深く頷いた。
「この土地には、黒髪の魔女の伝説もありますし、賢明な判断ですね」
ハワードは、エイダの黒髪の先を手に取り、口づけをした。
「ハワード様?」
「私の心は、あのときからエイダ様に捕らわれていたんですよ」
ハワードは照れながら笑った。その笑顔に、エイダの胸はときめいた。
「ハワード王子、いらっしゃいますか? 皆様がお待ちですよ!」
兵の声が聞こえる。
「ハワード様、そろそろ舞踏会に戻らないと」
エイダはそう言って、ハワードに微笑みかけた。
「また、お会いできますか?」
ハワードは会場に戻る前にエイダに尋ねた。
「ハワード様がお望みでしたら、いつでもお会いできますわ」
エイダはそう言って、ハワードが人混みにかき消されていくのを見守っていた。
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