私は貴方が欲しい。

@chauchau

財布を拾っただけの出会い方


 私は貴方に毒を盛る。

 今日も私は毒を盛る。


 急ぐことはない。慌てることはない。自棄になどなってはいけない。

 大切なのは優先順位。目先の欲に囚われては損をする。貴方だけが欲しい。貴方だけは譲らない。


「譲れない」


「そういった心情を相手に直に伝えてくるあたりがお前らしいね」


「お弁当です」


「どうも」


 差し出す手と受け取る手。

 一瞬だけ触れあう指に、貴方の熱に、心がこぼれ落ちそうになる。


「先輩には艶福の相がありますから」


「眼科にでも行って来い」


「両目とも裸眼で2.0あります」


 包みを解く指と見つめる顔のどちらを眺めていれば良いだろう。どちらも眺めていたいが、傍に居たい気持ちを潰せない。


「再確認したいんだけどさ」


「どうぞ」


「お前は俺が好きだってことで良いんだよな」


「そうですよ」


「んでもって、俺もお前が好きだって理解してくれているよな」


「この世の春と言えましょうか」


「付き合ってください」


「お断り致します」


 零れた息を吸い込んだ。

 言葉が紡がれるたびに貴方の呼吸が私に届く。唇が動くたびに私の肺は満たされる。


「早く彼女をつくってくださいね」


「理解しかねる」


 永遠の愛など存在しない。

 好意など信用に値しない。


 私は貴方が欲しい。


「私でなければ駄目だと先輩の全てが理解して初めて、先輩は私のモノになる」


「普通に好きですで終わってくれないかなぁ」


「勿体ないことは出来ません」


 貴方だけが欲しい。


「毎日後輩女子と屋上で飯食ってる男と付き合ってくれる女が居るはずないという事実はどう見る?」


「卵焼きが自信作です」


「そういうところも含めて好きなんだけどさぁ……」


 確固たる証拠が欲しい。

 貴方が私のモノである証拠が欲しい。私が貴方のモノである証拠が在るように。


「餌付けされ過ぎてもうお前の飯以外を食う気になってないんですが」


「たった数滴分の私です」


「一滴の水を海に混ぜれば、世界中のどこの海でも存在するとか言うじゃん」


「足りませんね」


「お前以外を好きになるとか考えられないんだけど、強烈過ぎて」


「口では何とでも言えますから」


「俺のこと好きなんだよな?」


「ええ」


「信用してくれても」


「ははっ」


 舐め回す。

 つま先から頭まで、髪の毛一本に至るまで。全てが欲しい。


 貴方が欲しい。

 貴方の心が欲しい。

 貴方の未来が欲しい。

 貴方の全てが欲しい。


「大人になったときにプロポーズまで断られたら泣くからな」


「早く彼女をつくってくださいね」


「すでに泣きそうだわ」


 私が欲しいのは貴方だけ。

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