3ー2
頭上から何かが目に差し込み、サラは思わず目を瞑った。やがて恐る恐る目を開けると、そこには見たこともない光景が広がっていた。自分の瞳の色を薄めたような色が頭上に広がり、ところどころに白い靄のようなものがかかっている。
(すごい明るい……。“ニンゲン”って、こんな光の下で生活してるんだ……)
違うのは光だけではなかった。サラの周りには多くの色が溢れ返っていた。壁面にいくつもの四角い硝子がついた巨大な箱が両脇に並び、扁平な形をした赤や青色の傘がその上に被さっていた。その箱の中から多くのニンゲンが出たり入ったりしていたが、みんな実に色とりどりな衣を身に纏っていた。特に目を惹くのは若い女の服装で、襟元や肩の部分には大きなひだがあしらわれ、袖口には細かな刺繍が縫いつけられ、腕や首に金や銀の装飾品をつけ、とにかく実に華やかな格好をしていた。
(綺麗……)
サラは自分の表情が綻んでいくのを感じた。頭上から差し込む光も、彩り鮮やかなニンゲンの衣も、何もかもが煌びやかで美しい。まるで宝石箱の中にいるみたいだ。
「ねぇ、君1人?」
サラが人間界や人間に見惚れていると、後ろから誰かが声をかけてきた。振り返ると、髪の茶色い若い男が興味深そうにサラを眺めていた。上衣は半袖の白地の布に大ぶりの花をあしらった襟付きの服、下衣は膝上までしか丈のない2本の筒のような服、膝の下からは日に焼けた足が見え、茶色い紐が足先を包んでいる。随分と開放的な格好だ。
「君、そんな格好して暑くないの? 黒づくめの上にタートルネックにブーツって。今夏だぜ?」男がいかにも不思議そうに尋ねてきた。
「別に?あたしは一年中この格好だから」
サラは平然と答えた。ニンゲンのカラフルな服装も美しいが、黒は魔女を象徴する崇高な色だ。譲るわけにはいかない。
「ふーん? まぁいいや。それよりさ、今ヒマ? ヒマだったら俺とちょっとお茶でもしない?」
男が気軽に言った。サラはきょとんとして男の顔を見返した。“お茶”が何を意味するかわからなかったのだ。
「俺、君のことすげぇ興味あるんだよね。服は変わってるけど、結構可愛いしさ。な、行こうぜ? 俺、この辺り詳しいからさ、いい店知ってるぜ」
男が熱心に言った。サラはようやく、男が自分をどこかに連れて行こうとしていることがわかった。“店”が何をする場所かは知らないが、この男について行けば、もっとニンゲンの世界のことがわかるかもしれない。
「いいわ。その代わり、ちゃんとアタシのこと楽しませてよね?」
サラがつんと済まして言った。男は
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