九話 黒幕
俺と大地は仲良くなった。一週目はなかなかすぐに馴染めなかったのに、あっさり馴染んでしまった。これがこの後、どうなるかはわからない。
そして、俺らの試合が終わった後、希菜子先輩が何かを思いついた笑みを浮かべる。おそらく新入生交流戦のことだが。先輩はこう言い放った。
「こういう試合、おもしろい!よし、これからも続けていくよ!」
周りの先輩方は驚きの表情、俺はスンっとしている。
「っというわけで、幸!それに、そこの少女!」
「え!?私ですか?」
「もちろんよ!さあやっちゃいましょうよ!」
恭子は半ば強制でやらされる。ただ見学しに来ただけなのに。俺はコートを後にして、ラケットを持った彼女とすれ違う。彼女は冷や汗をかいている。そして、向こうの彼女はどこか清々しい。俺はあの事実を知ってしまったせいで、彼女とうまく体面することができず、そのまま試合が始まってしまった。俺はその時、何をすればよかったのだろうか。
さて、審判は引き続き、純先輩である。
「またまた俺が審判をするぜ〜!レディー...ファイト!!」
意外とこの試合は長く続いた。俺らと同じく二点先取なのに、恭子はバドをやったの久しぶりなのに、上手かった。どこか既視感を覚える。昨日彼女と打ち合った時とは別の、前の周回での出来事か。なぜか心臓がバクバクと鳴り響く。一体どうしてしまったのだろうか。なぜか心地いいようなそんな感覚の中にいる。急に俺が倒れたので、先輩方や彼女たちも試合を止め、俺の方へ来るようなそんな気がした。でも、意識が朦朧としてくる。
そして、俺はゆっくりと目を閉じていった...
■
目がゆっくり覚めていく。天井が見える。見たことのない景色だ。今は布団の上か。ゆっくり横へ目をつける。子供だ。しかも誰かに似ている気がする。必死に考えを絞り込むが、わからない。その時、遠くから知った声が聞こえる。俺はゆっくり起き上がり、その声の方へ向かう。扉を開け、四畳ほどのリビングへ出た。そこの机に朝ごはんを置く彼女。
「もうご飯、できたよ!」
「ああ、すまない。今、起きた...」
「もう、ついでにゆうちゃんも起こしてきてよ」
「ああ...」
俺はそのまま戻り、自分の娘を起こした。確かにあの彼女だった。俺の妻が彼女だった。俺らはバドをやめてしまったのか。いや、ふと思い出す。
「ああ、夢だったのか...」
「ねえ、早く〜!」
「今、行く!」
俺たちは今まで夢を見ていた。後悔を無くすようにタイムリープしてしまった夢を。でも、彼女はここにいなかった。いや元々ここにいなかったのだ。俺が好きだった人は、もうすでに...高二のある日に事故で...
そんな時に彼女が助けてくれた。助けてくれた...
でも、今あの日のことを思い出し、後悔の歯車は回り出す。どうして救えたはずの彼女を救わなかったのだ、と...
そして、妻である彼女がテレビをつけた。ここは何のたわいもない家族の団欒。一人娘と夫婦の家族の朝食風景である。そんな中、ふとテレビを見ると、彼女が写り込んでいた。いやバッチリ映っていた。あの日、亡くなった彼女が。
俺は涙で目がいっぱいになった。
■
それからは朝飯も無事に口に入れることができず、彼女に少々怒られた。でも、あの時に見た夢は、紛れもない真実だったというわけだ。俺はふと懐かしい河川敷にいる。そこから眺める景色はかつてバド部のメンバー全員で見た光景だ。そこで、告白すれば、もっと変わった人生だったのだろうか。そう思うも、俺は今幸せに生きている。あの時は告白しなかった。だから、恭子と結婚したのだな。これは後悔ではない。俺の
俺は物思いにふけり、そのまま帰ろうとした時、誰かに呼び止められた気がしたが、すぐに気のせいだと感じ、幸せの家庭へ帰った。あの夜に打ち合った高架下をちらりと見て、帰った。
「後悔なき人生あらず、後悔あっての人生。幸せになったな...」
はねをトバせ!! アカサ・クジィーラ @Kujirra
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
自己満詩集/アカサ・クジィーラ
★19 エッセイ・ノンフィクション 連載中 87話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます