四話 僕の彼女
恭子の手を引っ張って、家の近くの河川敷にある
俺はその場所に着き、草むらに隠してあった道具セットを取り出し、彼女にラケットを渡した。
「急に何よ...」
「とりあえず、打ってみようや!」
「私はもう...」
「...お前にも、もう一回バドを打ってほしい」
「...わかった」
彼女は少し熟考して、承諾した。一応かつて彼女は俺よりも強かった。しかし、この時は彼女はすでに弱っていた。受験による運動不足のせいか、はたまたトラウマのせいか。でも、俺は寄り続ける。彼女を救けたい。そう思ったから。
ラリーは続き、数分。彼女は本来の強さを取り戻しつつあった。素早くラリーを続けたり、彼女が打ってきたスマッシュを跳ね返したり、そして高架下ギリギリまで届くクリアを跳ね返したりした。久しぶりに彼女の笑顔を見たような気がする。未来の俺とも一切会うことがなくなった彼女の。
そして、ボロボロの服で赤ニット帽をかぶったおじさんがやってきた。この場所で暮らしている吾妻おじさんだ。おじさんが俺たちのバドを見つつ、壁沿いの砂利道に敷物を敷き、そこで寝ようとした。その時に、俺はシャトルを打ち返すのをミスった。
「あ...悪い悪い、すまなかったな」
「...うん、大丈夫よ」
彼女の顔はいつもの様子へと戻った。ただどこか嬉しそうな表情だと感じられたが。そこで、おじさんは俺たちを見計らい、話してきた。
「坊主!友達、連れきたんだな」
「あ、すみません、吾妻おじさん...」
「あ〜別に怒ってないよ、ただなんか青春してんだなって感じだったから、見ほれてしまったよ」
彼女はきょとんとしている。それもそうだ、彼女はおじさんのこともこの場所のことも知らないのである。
「え?賀翼、この人は?」
「え、あ〜彼は吾妻おじさん、この場所でたむろってるホームレスのおじさん!」
「へえ〜」
彼女に興味が俄然出ているような気がした。
「お嬢ちゃん、好きな人、おるの?」
そのおじさんの一言によって彼女は顔を赤らめた。
「え、いや、別に...いませんよ...」
彼女は目をキョロキョロしている一方、おじさんは変な笑みを浮かべる。俺には全くもってわかっていないが。
「そうかそうか」
おじさんは何やら企みを持つような顔をしている。そして、その質問をそっくりそのまま俺にも言ってきた。俺の返答はもちろん...
「えっと、まあ、いるけどよ...」
同じ部活の幸のことである。でも、幼地味の彼女はどこか驚いた表情を見せる。さらにおじさんは変な笑みを浮かべる。その時に電話がかかってきた。その電話を取る幼馴染、電話先は浩介。そういや、お食事会に行く途中だったのを思い出す。そして、おじさんにまた今度の挨拶をして、その店へとダッシュで向かう。ちらっと見た彼女の顔はどこか嬉しそうで、かつての元気一杯の表情へ戻っていた。俺は彼女のことを助けることに成功したのだ。そう気づかせた。
■俺たちが去った後、吾妻おじさんの様子...
彼は河川敷を走っていく2人の背中を見ながら、首からかけている青いネックレスを掴み、独り言を発す。
「後悔するなよ」
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