時間超過と恋模様
三話 幼地味と彼女
彼女が無事にこの部活に入った。しかし、この日は入学式のあった日である。この時はまだ一年生は部活に入ってはいけない日であって、二、三年より早く帰らねばいけなかった。顧問の隼雄先生が来たので、俺と彼女は先輩たちに隠れて、ゆっくり素早く校門をくぐり抜けた。俺の記憶上、顧問の磐田隼雄先生はとても厳しいお方で、瓜生先輩を大貴族だと思えば、彼は国王またはそれ以上である。それだけ怒るとめんどくさいし、恐い。
そして、俺はふと思う。そういや、今幸と校門前にいる!?そのことに気がつくと、俺は顔を赤らめた。それを彼女に見せまいと少し下を向く。
「...ふ〜、入っちゃった。」
彼女の目はまだどこか寂しさもあり、以上に楽しさもあった。彼女の身に起きたトラウマ、俺が今ここで言うのはいけないので、黙っている。
「ねえ、君って入学式前から、ここに来ているの?」
「ああ、そうだ」
「そう、か...」
そんな何も味気ない会話を少しして、帰路につこうとした時に、彼女がちょっと待ってと一言、俺は彼女と一緒に途中まで帰ることになった。その帰路の途中、彼女と俺は全く会話が続かなかった。何の話をすれば良いのかと自分の頭で自問自答を繰り返すたび、彼女を見るとやっぱり俺は好きだったんだなぁって再び自覚する。そして、もう少しで彼女の家が見えてくるあたりで(この時の俺はまだ彼女の家を知らなかったが)こう言った。
「これからもよろしく...」
少し緊張しているような気がした。それもそのはず、彼女の中学は女子校であったからだ。初めてこの時に男子と喋ったのだろう。だから、初めて会った時、少しぶっきらぼうに感じたのはそのためである。まあ全部知っていたのだが。
「ああよろしく。」
もちろん俺も緊張する。なぜなら好きだから。そしてそのまま彼女の家の前に着いた。俺の帰路の途中に彼女の家があったのだ。モダン建築の立派な家、確かお父さんが一級建築士だったはず。
「...今日はありがとう、また明日。」
彼女が門扉を通り、玄関扉の前まで来た時、俺は約束をした。
「なあ、先輩とバドを打つのも良いけど、たまには俺ともバド、打ってくれないか?」
半ば告白をした気分で言ったので、顔を赤らめている。そして、彼女は笑顔で振り返り、
「...もちろん!」
まるで女神のような容貌であった。
その感覚を胸に抱きしめながら、俺はそのままじゃあ明日と言い、俺の家の前に着いた。さあそのままの感覚で家へ入ろうとした時、後ろから声をかけられた。誰だと思い、後ろを振り返る。そこに立っていたのは、幼地味の結城恭子であった。彼女の家は俺の隣。幼稚園からの縁である。
「賀翼!はあ、やっぱり忘れていた...」
俺は少し頭の中を整理をする。確か今日の朝、お母さんが何かを言っていたような気がした。あの時は入学のこと、幸のこと、そしてタイムリープのことで頭がいっぱいであった。よって、何も聞いてない。
「えっと、忘れていたって?」
「バッカじゃないの!今日は入学祝いと合格祝いで、新谷家と須藤家と結城家でお食事をする約束だったでしょ!」
すっかり忘れていた。どころか、俺はそんなの覚えていない。全くもってそんなイベントがあった記憶がない。もしかして、俺はまたどこか選択肢を変えたのかと頭を回らせていると、
「もう行くよ!」
彼女に耳をつねられ、そのまま店の方へ連れてかれたのであった。
■
その道中、俺は聞いてみた。
「なあ、その約束っていつからしてたっけ?」
「知らない、私たちに内緒で家族同士が結託を結んでいたらしいよ」
「そうなのか...」
なるほど、そういう経緯なのかと思ったけど、やはりこのイベントは覚えていない。
「ねえ、バド部は楽しかった?」
そういや、この彼女も中学のときに同じバド部で、女子同士のいざこざにより彼女はバドをやめたはず。俺はこの幼地味たちとも疎遠にならずに仲良くしていきたい。
「ああ楽しかったぜ!」
「そう...新しい一年生、入った?」
「え、まあ...女子が1人、入った」
「そう...」
彼女は悲しそうな表情で、涙を流したような気がする。
「なあ、お前はここのバド部に入らないのか?」
そしたら、急に彼女は怒るようなまたはヤケクソとなった。
「賀翼くんに何がわかるのよ!」
彼女はそのままどこか遠くの真っ暗闇の方へ走り出した。俺は彼女を追いかける。絶対に見逃さないとバドで鍛えた目を使って、追いかける。そして、その店を超えて、近くの河川敷で彼女の手を掴む。そして離さない。
「何よ!離してよ!」
「...」
「...もう嫌なのよ、バドミントン...もう打てないの」
「...」
「私、もうどうしたら良いのかわからない...!」
俺の記憶上、この出来事自体初めてであった。俺はもちろんテレビの向こう側の彼女が好きだった。しかし、目の前の彼女ととも一緒にバドを打ちたかった。彼女は中学の時はそこそこ強かった。強いがゆえに周りの女子部員から陰湿ないじめを受けていたらしい。先生にも言わず、家族にも言わず、まして俺たちにも言わず独りで戦ってきた。でも、コート上の彼女の姿は綺麗だった。もう一度見たい。
「なあ、俺と一緒に打たないか?」
「...え」
「ちょうど近くにさ、俺の練習スポットがある。」
この河川敷のとある橋の下に俺だけの秘密の練習場所がある。そこにはラケットとシャトル数個を隠しており、自主練が可能となっているはず。かつて俺が1人でつらいときもうれしいときもお世話になった大切な場所だ。そして、いずれ幼地味2人と幸だけにしかバレることとなる。だからいつバレたっていい。俺の大切な心の拠り所を彼女のために使う。俺はそのまま彼女を連れていき、河川敷のとある橋の方へ向かった。俺が必ず恭子を助ける!!
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