第11話

巨体の男が罵声をあげた後。少し経ってテーブルを支えにして立ち上がろうとしたのだろう、ミシっと音がして次に椅子の引く音が聞こえた。おそらくこっちに歩いてくるつもりだろう。

 僕は正直どうすればいいのか不安に思ったが、でも自分がしてることが悪い事ではないと思っていたので受付の人に話を進めてもらおうとそちらを見た。すると僕よりも明らかに顔色を悪くしてどうすればいいかわからないといった様子だった。

 これではだめだなと恥ずかしながらテーニャの方を向いた。するとテーニャもこっちを向いていて目が合うとニカっと笑った。

 

 「面倒くさいことになっちゃいましたね」

 

 「そうだな。どうしたらいいかな?」 

 

 「私が受付の方とは話を済ませとくので、先輩はあの巨人とお話していてもらえますか?」


 「話すって何を話せばいいんだよ!」

  

 「適当に謝っちゃって、なりたい理由話せば多分引き下がりますよ!」


 「他人事だと思って適当だな」


 「他人事なので!そもそも先輩がひょろひょろなのがいけないんですよ!ほらさっさと片付けてきてください!」

 

 テーニャは僕のお尻を叩いて巨体の男の方に押し出した。どうやらいつもみたいに解決する案は今回はなかったみたいだった。仕方ない。言われたとおりに時間を稼ぐしかないな。

 僕は少し微笑みながらその男を待ち受けた。

 

 「何笑ってんだよ」

 

 「いやー。こういう顔なもので申し訳ない」

 

 「まあいいや。俺はお前みたいな奴が大っ嫌いなんだ。さっさと他のギルドに行って別の仕事紹介してもらいな」


 「えっと。なんて言うんでしょうか。あなたは何か勘違いをしているみたいですが、僕は」


 「勘違いなんかしてねえ」


 「多分勘違いですって。僕はまっとうに冒険者になろうとしてるだけで」


 「まっとう?俺にはあの嬢ちゃんの力を借りて楽しようとしてるようにしか見えねえぞ」

 

 「そんなことはありません。テーニャの方が確かに冒険者としての知識はありますが、それだけに頼ろうとは思ってませんし。僕の方が多くの魔物を倒せると思ってます」


 「そんなわけあるか!あの嬢ちゃんは見るだけである程度できる奴だとわかるが、お前からは何も感じない!そもそもそんなヒョロヒョロの体に真っ白い肌で魔物なんて倒せるわけがない。外すらまともに出たことないだろう?」

 

 「いや。これは体質で」


 「悪いことはいわねえ。そんな持てもしない剣なんか捨ててまっとうに働け。嬢ちゃんだってその方がよろこぶぞ」


 どうやらこの男は話が通じない上にかなり勘違いしているようだ。そんな風に働くだけなら、男爵様の元で働いてればよかったんだ。僕はさっさと話しを切って受付で登録することにした。


 「持てますし、これ以上話しても無駄みたいなんで失礼します」


 「おい。待てよ。俺はお前のために言ってんだぞ!そうだ!もしなりたいならなんかそれなりの物を俺にみせてみろ。そしたらもう何も言わねえ」

 

 男の声に僕は内心かなり喜んだ。正直あんな物言いをされて腹が立っていたがどうやらかなりの重鎮のようだったので何もしないで穏便にと思っていたが、相手からそういう持ちかけがあるなら我慢する必要もない。

 僕は笑顔でこう言った。


 「わかりました」

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