第7話


 「乗せてくれてありがとうございました」

 

 「どういたしまして。今回は通ったからいいけどあんまり夜に出歩かないようにね」

 

 「はい。気を付けます」


 お礼を言って繋ぎ場を離れて、ゆったりと町を眺める。やっとのこと着いたこの町は男爵邸から一番近いだけあってかなり発展しているのがわかる。もう外は暗いのに町の中は魔道具で照らされてそこそこの明るさを保っているし、人通りもあり飯屋が繁盛しているのも見える。

 さっそくお腹を満たしたいところだけど、まずは宿屋を見つけないとな。自分で探すのもいいけど、ここは自称先輩冒険者のテーニャさんにお願いすることにした。

 

 「やっとついたね」

 

 「そうですね。少し疲れちゃいましたね」

 

 「ところで先輩冒険者のテーニャさん」

 

 「はいはい!なんですか?」

 

 どうやらまんざらではないようだ。

 

 「この町のいい宿屋って知ってたりする?」

 

 「もちろん知ってますよ!こっちです」


 テーニャは胸を張ってずんずんと道を進んでいく。大き目の通りにあるところに行くと思っていたが、そうではないらしい。通りを逸れて、いい匂いもしなくなったころにやっとテーニャは止まった。

 

 「ここです!」

 

 おそらく宿屋であろう店を背にして誇らしげに笑うとタッタッタと店に入っていった。

 僕もゆっくりと付いて中に入ると、どうやら1階には食堂があるらしく、いい匂いが入り口までする。今は食堂にいるのだろうか、受付には誰も居ない。テーニャはその様子を見て、手慣れた手つきで受付にあるベルを鳴らした。リンリンと2回鳴らすと受付の奥から優しい顔をした少しふくよかな男の人がやってきた。

 

 「あいよ、あいよ。いらっしゃい」

 

 「どうもこんばんは」


 「お久しぶりです!」


 「こんばんは。テーニャちゃんは久しぶりだね。2人とは珍しいね、今日は泊まりかい?」


 「そうです!2部屋お願いします。あとご飯も!先輩もここで食べますよね?」


 「はい。お願いします」

 

 「あいよ、じゃあ荷物置いて適当に降りてきてくれ」


 用件を言うと主人はすぐに部屋のカギを置いてくれ僕たちのご飯の準備をすると言ってまた奥に入っていった。

 僕はカギを受け取り、テーニャに連れられて2階の部屋に行った。部屋はほとんど寝るためだけの部屋で狭いが、ここもまた清掃がよく行き届いていた。僕は荷物を適当に置き、カギをしてテーニャの部屋をノックした。

 

 「テーニャ」

 

 「先輩ですか?どうしました?」


 「ご飯に一緒に行こうと思ってさ」

 

 「あー。ちょっと準備してからいくので先に行っててください。すぐに行くので」

 

 「そうか。じゃあ先に行ってるぞ。なんかおすすめとかある?」


 「おすすめ?あー。この宿の食堂は主人が食べたいものを作ってるのを振舞ってるだけなので、そういうのはないですよ」

 

 「わかった。ありがとう。じゃあ行ってくるよ」


 「はーい」


 どうやら準備があるらしいテーニャを置いて僕は先に行くことにした。1階に降りて、匂いを頼りに進んでいくとすぐに食堂は見つかった。中は結構な広さがあり、僕たち以外にも何人かいるようだ。明らかに泊まれる部屋より人数が多い所を見ると飯屋としても使ってる人がいるみたいだ。

 僕がどういう感じで食事を始めればいいかわからずちらちらと周りを見ていると、それに気付いた主人が声をかけてくれた。2人で食事をしたいことを伝えるとすぐにテーブルに案内されて少し待つように言われた。

 本当になにかを選んだりはしないみたいだ。少し待つと料理が運ばれてきた。パンと野菜と肉が少し入ったスープだ。

 テーニャを待とうとも思ったが、まあいいだろうと僕はパンをちぎり、スープにつけながら食べ始めた。パンはいいものらしく、スープに漬けなくてもいただけるほどおいしく、スープも塩味がよく利いていて久々の運動をした僕の体に素直に入ってくるのを感じる。手が進むままに食べ進めていき、半分ほど食べる頃になるとやっとテーニャがやってきた。そして僕の食べているのをみてうれしそうに声を上げた。

 

 「おー。今日は大当たりですね。私もすぐとってきます」

 

 そう言ってすぐに主人の元にいってご飯をとってきた。どうやら今日は当たりらしい。

 

 「うまいな」

 

 「そうでしょう?毎日気まぐれメニューなのを除いたら最高です!」


 「たしかに選べたらもっといいのにな」

 

 「ご主人いわく、食材を置いとくのがめんどくさいらしいです」


 「なんだかもったいないな」


 「そうですよね。こんなにおいしいのに。ごちそうさまでした」

 

 その言葉に僕はかなりおどろいた。テーニャが来てから僕の皿の中身はほとんど変わっていないのに、もう食べ終わったらしい。

 

 「早いな。もう食べ終わったのか」

 

 「先輩が遅いだけですよ!冒険者たるもの食事は素早く!ですよ」

 

 「なるほどな。いや、にしても早すぎるだろ」

 

 「そんなことないですって。それじゃあ私すこし疲れてしまってるので、先に失礼しますね」

 

 「あぁ。わかった」

 

 「明日は登録に行くんですよね?今日みたいに寝すぎないように気を付けてくださいね!それじゃあ失礼します」

 

 「おう。また明日」


 テーニャはそう言ってすぐに部屋に戻っていった。

 少し経って僕も食べ終わったが、少し足らなかったので追加料金を払うからと主人に言っておかわりをさせてもらったりし、満足のいく食事をすることができた。

 主人にお礼を言い、満足感を抱えて自室に戻りテーニャの忠告もあったのですぐさま寝ることにした。

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