第27話



「アルナ王女、連れてまいりました」

「ご苦労様です」


部屋に入ると豪華なアクセサリーをバンバンと使った綺麗な女性がいた。身につけているものだけで家も買えそうだ。


「この度は妹を助けて頂きありがとうございます」


王女は優雅に頭を下げた。


「……じゃあ御礼下さい」

「失礼なやつじゃな!王女が頭を下げているのだ、敬意を払うのが普通じゃろうが」


後ろに姿勢よく立っていたじじぃが滅茶苦茶キレてくる。勘弁してくれよ…



イリーナを止めるのが大変なんだから


「御礼はさせていただきます」


王女は再び頭を下げた。


「ああ。あと、もう二人いただろ?」

「爺、」

「………はっ」


じじぃは俺を憎たらしそうな目で見ながら返事をして、何処かへ向かった。


「あ〜、あと」


王女はポンと手を叩く。


ーーー刹那



嫌な予感がした。


そして、気がつけば俺の目と鼻の先に刃があった。


「………期待ハズレですね」


王女ははぁとため息をついて、俺に刃を向けている女騎士に手を降ろすように指示する。


え?ナニコレ?イリーナは今回に限っては何もせずニコニコと笑っている。と、思ったら


「節穴馬鹿女が何言ってるの」


いきなり王女に向かって悪態を吐いた。


「口を慎め!無礼だぞ」


女騎士はイリーナの首筋に刃をおく。しかし、イリーナは気にせずに話を続けた。


「ユウトはって分かってたから避けなかったの、わかったかな?」


イリーナは深い笑みを浮かべた。


その表情をみた女騎士は、自身が有利にも関わらず冷や汗をかいた。


「……なるほど」


再び、王女は女騎士に剣を降ろすよう指示した。


「貴方方の力量は分かりました」


そう言うと、おもむろに王女は立ち上がった。そして、俺とイリーナの正面に立った。


「では、その力をこの王女アルナにいただけないかしら?」


「………ん?」


「もちろん、報酬は弾むわ」


王女はニッコリと微笑んだ。俺は真剣に王女の顔を見た。返事を待っているようだ。だが……








「ーーーごめん、何の話?聞いてなかったや」


イリーナも含めこの場にいる全員が唖然とした。



聞いてなかったわけではない。あ、ごめん嘘、全く聞いてなかったなかった。うむ、素直なことはいいことだ。


ん?何で聞いてなかったかって?


途中まで聞いてたよ。


イリーナが文句言ってる途中で違うこと考えてただけ。


だって、イリーナ何ていったと思う?


俺は刺さないってわかってたから避けなかったっていっただろ。


んなわけないない


何かヤバい気がする…!止まりだったもん、正直。


だいたい、イリーナはレベルが高いかもしれないけどさ、俺は今レベル1よ?多少スキルがあるだけでぜんぜん、もうじぇんじぇん何も出来ないからね?


もうそこからは違うこと考えて、つまり夕食だね。


ギルト探してる途中にたくさん露店が並んでたからな〜。なんかラーメンらしき店もあったから一回行ってみたいんだよね。この世界がどれ位の料理か知りたいし。


「聞いてるのかァ!貴様ァ!」


「じじぃがうるせぇ…」


ん?左を見ると顔を真っ赤にして今にも血管が破裂しそうなじじぃが唾を吐き散らしながら怒鳴っていた。


またもや、違うことを考えていて、なんにも聞いてなかった。え、てかいつの間にこのじじぃ帰ってきたんだ?


あ、アリエルとルーナもいるじゃん


「じゃあ帰ろ〜」


俺は反転して、ドアのところに向かうが、いつの間にかいた門番二人が槍をクロスさせて、行く手を阻んだ。


「貴様ァ!舐め取るのか!」

「え?なんで?」


本当になんで怒ってるのかわからない。


「まぁ、よくわからーーッ」


凄く悪寒がして、咄嗟に身をひねる。


するとブシャッと血しぶきをあげて、俺の左手が飛んでいった。


「ッうぐゥ!!」


全身から汗がぐっしょりと出る。あ、ヤバい痛くて死にそう。痛い


「……や、やめろ、お前ら」


三人の怒りと殺気がビリビリと部屋の中を充満させて伝わってくる。痛い


「…なんで?」

「もう、十分だろ…」


実際、三人の強力な殺気だけで、部屋にいるものは震えて呼吸すらうまく出来ていない。痛い


「何者なんだ!貴様らは!」


俺を斬った女騎士が叫んだ。女騎士は王女の護衛にあたり、こちらをもう襲ってくる気配はない。痛い


〈条件を満たしました。スキル『痛覚無効』を獲得しました〉


〈条件を満たしました。スキル『自然回復』を獲得しました〉


久し振りに脳内に声が届いた。それと同時にさっきまで感じていた激痛が感じなくなっていた。


しかし、自然回復はどうも微妙で血が止まった程度だ。


〈条件を満たしました。スキル『自然回復』がスキル『超回復』に進化しました〉


何故か進化したスキルは一瞬のうちに俺のなくなった左手を復活させた。


「別に普通の人間ですけどぉ〜?」


俺はべーっと舌を出した。


「腹減った、帰ろ」





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