第二十四話 シラハの才能
カリルと並んでシラハの型練習を見たリオは、深々と嘆息した。
「才能ってこれかぁ」
「まぁ、気を落とすな」
カリルが同情してリオの背中をポンポンと叩く。
才能の違いをまざまざと見せつけて、シラハが首をかしげた。
「……才能ある?」
「リオの数倍はあるな」
「認めるしかないね」
リオとカリルからお墨付きをもらい、シラハは一度木剣を振る。
しかし、シラハ本人は納得がいかない様子だった。
「どこが、才能?」
「身体強化の効果だよ」
リオが指摘する通り、シラハの身体強化の効果は非常に高かった。
ろくに鍛錬もしていない今ですら、リオと同等以上の動きができている。見た目は明らかにリオよりも細いというのに、木剣を打ち合えばリオの方が弾かれてしまうだろう。
カリルが苦笑する。
「体に魔力が浸透しやすい体質なんだろうな。しかもこの強化率は道場破りを繰り返していた頃でも見なかった」
様々な剣士を知るカリルから見ても、シラハの強化率は高い部類らしい。
だが、シラハは比較的やせ型で小柄だ。当然体重は軽く、オックス流のような重量を生かす攻撃を主体とした流派とは相性が悪い。
「シラハの見た目なら、侮ってくる相手に初見殺しを叩きこむ異伝エンロー流なんかを身に付けてもいいかもしれねぇ」
「異伝エンロー流って武器を乱暴に扱うから継戦能力も低い喧嘩殺法じゃん。ダメだよ。うちは貧乏なんだから」
「そうか? 柔軟性もあるし最適だと思うんだがなぁ」
「……リオの剣術がいい」
本人の希望によりリオの我流剣術を学ぶことに決まった。
学ぶといってもリオの訓練を最初期から観察していたため、シラハは型のほとんどをその目的も含めて理解していた。
一通り練習をして休息をとっていると、バルドがやってきてカリルに声をかけた。
「急で悪いんだが、明日からしばらく山の調査をする。メンバーで話し合いをしたいからカリルも来てくれ」
リオは山に視線を移す。
冬の間は白く染まっていた山はすっかり緑を生い茂らせていた。そろそろ山に入って春の山菜や香料にする花を摘みたい頃合いだ。
バルド達が山の調査をするのも安全確認のためだろう。
カリルが立ち上がってバルドに頷いた。
「邪獣の件でギルドに経過報告をしたいから、オレも調査はするつもりだった」
「そうか。この調査で何も見つからなければ村長も村のみんなの入山を許可するつもりでいる。というか、流石にもう止められないからな」
「冬は乗り切ったとはいえ、春も物入りだもんなぁ。日常が戻ったのならいいんだが」
「それを明日調査するんだよ。リオとシラハは家に帰るか?」
バルドに問いかけられ、リオはシラハと顔を見合わせる。
「もうちょっと訓練する。あれからユード達も大人しくしてるし」
「まぁ、大人連中でがっつり叱ったからな」
バルドは呆れたような顔を道場の方へ向けた後、リオ達に向き直る。
「帰りは遅くなるだろうから、母さんに言っておいてくれ」
話し合いにかこつけて酒盛りをするんだろうなと見抜きつつ、リオはバルド達を見送った。
「カリルって、最近は酒瓶を持ってないな」
トレードマークのようにいつも酒を飲んでいたカリルだが、冬の初めあたりから外で飲んでいる様子が無くなった。
シラハがリオの疑問に答える。
「……リオと一緒に剣術の開発を始めた頃から」
「あぁ、そういえばそうだね」
カリルの元パーティメンバーであるフーラウ達が聞けば喜ぶだろう。
「そろそろフーラウさん達も村に来るだろうし、シラハは機会があったら魔法を教えてもらうといいよ」
身体強化の効果を見る限り、シラハは魔法への適性が高そうだとみてリオは提案する。
領主から派遣された魔法使いオッガンの言動を考えると簡単には教えてもらえないかもしれないが、お願いするだけならいいだろう。
手土産に何を用意するかとリオが考えていると、シラハが疑問を口にした。
「……リオの剣術だと、魔法を撃たれたらどうするの?」
「避けるしかないね。俺の剣術に限らず、魔法に対抗するのは避けるか、鎧で耐えるしかないってカリルは言ってた」
魔法は詠唱や魔法陣が必要で発動に時間がかかるものの、発動さえしてしまえば防ぎようがない。
鎧で耐える場合でも特殊な加工を施す必要があり、加工しても即死はしない程度の効果しかない。
騎士や冒険者が魔法を使う対象と交戦する場合、発動までの空白の時間に急戦を仕掛けるか、奇襲で発動の余裕を与えないようにする。
「シラハはオッガンさんの講義の時にはまだ村にいなかったから知らないだろうけど、どんな種類の魔法でも核となる魔力の塊があるんだ。理論上、その核さえ破壊すれば魔法は消滅する」
「剣で斬ればいい?」
「それは俺も考えた。というか、考えなかった人はいないね。でも、できなかった。高速で飛翔する攻撃魔法の小さな核を狙うのがそもそも難しい。それに、剣を核に届かせる前に核の周囲に発動している魔法そのものを食らうから、物理的な干渉ができないんだよ」
防御魔法ですら、魔法を受け止め切ったうえで核が自壊するか込められた魔力を消費しきって消滅するのを待つ。それだけ、核に直接干渉するのは難しいのだ。
「飛んでいるツバメの心臓を狙うようなものだってさ。失敗したらもろに魔法の直撃を受けるリスク付き。それくらいなら避けるなり防ぐなりした方が現実的って結論」
「……リオの剣術は避けることに専念するつもり?」
「防具は最低限だから、避けることになるね」
ラクドイが道場で教えているオックス流であれば、重装備に加えて背後に守る魔法使いの援護で魔法にも耐える。
流派によって想定している状況が異なり、対処法も変わってくるのだ。
「俺たちの場合、守るのはあくまでも自分だから背後に何があってもまず避けることを考えないとだめだよ。あとは動き続けて相手に狙いをつけさせないようにする。そのためにも足捌きの練習が大事だね」
リオは自分の足を軽く手で叩いてみせる。
「そういえば、魔法には魔法をぶつけて相殺するやり方もあるらしい。核に届くくらいの威力が必要だし当てるのが難しいから防御魔法を使う方が手っ取り早いらしいけど」
「……魔法を覚えたらリオのことを守れる?」
シラハの純粋な質問に、リオはすっと目を細めてシラハの額を人差し指でつつく。
「自分自身を守れって言ってんだろーが」
ツンツンと額を突いて言い聞かせると、シラハは自分の額を両手で庇って言い返す。
「でも、リオは私を守ってくれた」
「俺は兄貴なの。妹分が生意気なこと言ってんなよ」
まったく、と鼻を鳴らしてリオは木剣を持って立ち上がる。
「魔法に適性があるかもまだ分からないし、教えてもらえるかもわからないんだ。まずは剣術を覚えることに専念しなよ。とりあえず、当面の目標はシラハの剣を買うことかな。山に入れるようになったら、お金になりそうな獲物を狩ったりしないと。シラハも手伝えよ?」
「分かった」
リオに倣って木剣を持って立ち上がったシラハが少し距離をおいて横に並ぶ。
二人で木剣を構え、虚空に向かって同時に振り抜いた。
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