第15話 【聖女】リズ
~魔王復活まであと一ヶ月~
レティ・ブラン様
前略
突然、お手紙なんて驚かせてしまったでしょうか。
最後に会ってから、まだそれほど時間が経っていないのに、もう何年も会っていないような、そんな気がしています。お元気ですか?
あの時、私のことを友達だと言ってくれて、本当に嬉しかった。けれど、友達だと言ってくれたあなたに、私は隠し事をしていることがあって、あれからずっと心の奥に引っかかっていたのです。
レティさん、初めて会った時、「前世の記憶がある」と言っていましたね。そして、私の髪の色はヒロインの色であると。
あなたの言うとおり、私はヒロインでした。
ゲームのスタートボタンを押したら、こちらの世界に来ていたのです。何度もプレイしたゲームだったので、シナリオもわかっていました。
本当は、聖女として覚醒しなければいけませんでした。そして、王子様と一緒に魔王を倒して封印して、ハッピーエンドを迎えなければいけなかったのです。でも、私は元の世界に帰りたくなくて逃げたのです。
イベントを無視して、聖女に覚醒しなければ、元の世界に帰らずに済むと、そう思ってしまったのです。向こうの世界に、私の居場所は無かったから。
シナリオを変えてしまえば、魔王も復活しないような、そんな気楽な気持ちでいました。
私のせいで、シナリオはずいぶんと変わってしまいました。それでも、魔王が再び封印されなければ、ゲームオーバーになってしまう。そうすれば、どちらにしても向こうに帰るのだと気づいた時には、本当に後悔しました。
覚醒イベントを自ら逃したせいで聖女になれなかった自分に、一体何ができるのかわからないけれど、それでもし向こうに帰ることになっても、それはスタートボタンを押した責任から逃げた罰なのだとそう思います。
それでは。
アルベルト君が無事にレティさんの元に帰れますように。
聖女になります。魔王を倒してきます。
また会えることを願いつつ。いつエンディングを迎えるかわからないので。――さようなら。 かしこ
リズ・シュナイダー
浅井 莉愛
―――その名前を見て、レティは「まさか。」と呟いた。
今朝方届けられた、懐かしい書き出しで始まった手紙は、レティを前世の記憶へ引きずり込む。手紙を抱きかかえるようにして、ストンと長椅子に落ちるように座る。そして、胸にその手紙を当てたままゴロンと寝ころんだ。涙することもなく、驚くこともなく、なんとなく全てのピースがはまっていくかのような、そんな感覚だった。
聖女として覚醒するヒロイン、リズ。
最北端の国境近くに封印されている魔王。
魔王と聞いて、相手は勇者だと思いこんでしまっていた。
これは、あれだ。———高校時代に、そこそこ人気のあったRPGゲームの世界だ。クラスメイトにおすすめだと言われて始めたあのゲーム。
でも。
確かに話が微妙に違う。それでも、それを知っている気がする。もう一度、差出人の名前を見る。記憶を辿る。
―――そうか。だから、彼女は。
「おーい、レティ。」
兄、ロベルトの声が思考の邪魔をする。今、そのシナリオを思い出せそうなのに!目をきつく瞑って、上を向く。
「レティ。いるんだろう?」と、ドアをノックする音が響く。ソファから、がばっと起き上がり、カツカツと足音をさせてドアに近づき、一気に開ける。
「何!?」
想像以上に怒った声が出てしまった。ロベルトが驚いた顔をして、「お前、またなんか考え事してたんだろう。」と、レティのおでこを軽く小突く。そして、「そんなじゃ、あっという間に嫌われるぞ。」とニヤリと笑う。
(…バレてる。)
「ふぅ。」と、レティは一息ついて目を瞑り、心を落ち着かせる。「で、どうしたの?」と聞くと、「お前にお客さん。」と、ロベルトが玄関の方を指して言う。
(誰だろう?まさか、リズさん!?)
今、まさに読んだ手紙の差出人を想像する。しかし、返ってきた名前は想像だにしなかった相手だった。
「アルベルトが来てる。」
レオナルドは今日、朝から商業ギルドに行っている。王都にある商会の会長を集めて、何らかの会議が開かれるらしい。そこで「魔王」について報告があるとは思えないが、「戦争が起こるかもしれない」ということに言及はあるだろうと、ロベルトは言う。まあ、情報の早さと準備に関してはうちが一番さ———と、得意げだっだ。
商会長が不在のため予定のない応接室で、久しぶりに目の前に座っているアルベルトは少し疲れているようだった。これからある人を迎えに行って、その人をギュッターベルグまで連れて行かなければならないのだと言う。
「だから、あまり時間が無いんだけど、それでも顔が見たくて。」
アルベルトにはありえないほど甘い言葉を吐かれ、レティが悶えたのはつい先ほどの事だ。国内とはいえ、ギュッターベルグは最北端の地だ。一泊や二泊で着くような場所ではない。
「ギュッターベルグまで、馬車でどれくらいかかるの?」
「馬なら早くて三日かな。馬車だともう少しかかるって言ってた。」
「じゃあ、アルベルトは馬で帰って来たの?」
レティがそう聞くと、アルベルトはちょっと嫌そうな顔になり、ぼそぼそと、明らかに言いたくなさそうに「飛んできた。」と言った。
「飛んできたって、どうやって? ワイバーンに乗ってとか?」
思わず食いついてしまうレティに、「ワイバーンって、相変わらずお前の発想はぶっとんでんな。」とアルベルトが苦笑する。
「じゃあ、どうやってよ。」
アルベルトがまた嫌そうな顔になる。そして、「転移魔法。」とだけ言った。
「何それ!? チートじゃん!」
「何だよ、チートって。」
アルベルトがまた困ったように笑う。
「そんなことよりさ。」
そうそう、こんなことを話している場合じゃないのだ。アルベルトに言わなければいけないことがあるのだから。「そんなことって…。」とアルベルトはぼそっと呟き、くくっと笑っている。
「迎えに来た人って、リズさん?」
レティがそう言うと、アルベルトは固まった。なんで知ってるんだと言わんばかりに、目が見開いてしまっている。
―――これは、当たりだ。
「リズさん、聖女に覚醒できていないって?」
アルベルトの返答を待たずにそう続けると、アルベルトの目ってそんなに大きかったのか~と思わず関心してしまいそうなほど見開いて、ひどく驚いたようだった。
(そりゃあ、そっか。リズさんと私が知り合いなことも、私が異世界転生者って彼女が知ってるって事も、アルベルトには言ってないんだった。)
「俺も昨日、聞いたんだ。」と、アルベルトが言う。ちょっと落ち着きを取り戻したようだ。
「ギュッターベルグ伯様より、聖女の迎えを命じられた時、俺、リズが聖女だってことも知らなかったんだぞ。なんで、お前が。」
(ちょっと悔しそうでウケる。いや、でもそんなこと今はどうでも良い。)
「そっか、アルベルトは何も聞いてないのね。」と確認するように言って、レティは少し考え込む。
「なんだよ。」とアルベルトが少し苛立ったように言う。
「ちょっと複雑な話なんだけどさ。」と、レティは少し身体を乗りだした。
「これはね、バグの発生に見せかけた隠しルートなの。」
アルベルトにとって、レティから発せられる意味不明な言葉には慣れているだろうけれども、さすがに今回は無理だろうか。それでも、理解してもらわなければならない。そして、彼女に伝えてもらわねばならないのだ。ここは、リズにとってゲームの中の世界かもしれないけれども、私たちにとっては現実なのだ。そして、きっと私はそのためにここにいる。リズが、いつかそう願うから。
「前世でね、同級生が教えてくれたの。異世界転生とか悪役令嬢とかの小説に一緒にはまっていた子なんだけど、彼女、なぜか妙に一つのゲームに固執してて、そいつがやっと見つけたっ!て言って。」
「おすすめ。」と言って教えられたゲーム。「ぜひ、やってみて。」から、「やってよ~。」に変わり、「やらなきゃダメ!」に変わったのは本当にすぐのことだった。
―――ああ、全て合点が行く。あいつ、私がこうなることを知っていたんだ。
「前世でね、やったことのあるゲームなんだけど。」と、レティは記憶を引っ張りだしながら、簡単にそのシナリオをアルベルトに話していく。
新入生の歓迎パーティー、ワイバーンの襲来、聖女の覚醒、魔王の復活、そして不思議な修道院の存在。レティが知るはずもないことを、すらすらと述べていく状況に、アルベルトはレティの話に耳を傾けざるを得ない。
しかし、現実に起きていることと少し違う?———と、アルベルトが訝しんだことに気が付いたレティは、「そうなのよ。」と笑う。
「そう、本当は、学園で起きたワイバーンの事件で、リズさんは聖女に覚醒するはずだった。なのにそこで、覚醒するのを拒否したから聖女になれなかったってリズさんは思ってる。でも、本当は新入生の歓迎パーティーに参加しなかった時点で既に隠しルートに入っていたの。」
同じ制服を着ていた彼女が、いつもワイバーンのイベントの所で苦戦していた。何をしたいのか分からなくて、私はいつも笑って見ていただけだけど。でもある日、彼女は嬉しそうにやってきて、「違ったの!」と言ったのだ。聖女に覚醒しないルートは、本当はもっとずっと前に分岐があったの!———と。
卒業パーティーでの婚約破棄とか、第二王子の立太子とかの描写まではさすがにゲームには無かったと思うけど、まあね、こういうことは、考えすぎたら負けだ。たぶん。
「理解できてる?」
「できてない。」と、アルベルトは不貞腐れたように言う。
「けど、じゃあどうすれば覚醒するんだ?」
「所詮ゲームの中だからね。バグじゃないんだから、最後はちゃんとハッピーエンドよ。しっかり隠しイベントが起きて、彼女は嫌でも覚醒させられる。」
そう言ってから、レティは「そうねぇ。」と考える。
彼女のことを思い出す。学校を卒業してから、仕事の忙しさにかまけて疎遠になってしまっていたけれど、それでもSNSでは繋がっていたし、幸せそうな彼女の日々を毎日のように確認して、いいね!を送っていた。
あれ?私が階段で転けたのも、彼女からのメッセージに反応したからではなかっただろうか。―――まあ、いっか。
「アルベルト、リズさんに手紙を書くからちょっとだけ待っててくれる?」
「ん。わかった。」
そう言ったアルベルトは、まだ狐につままれたような顔をしている。レティは応接室に備えられた机から、紙とペンを取りだした。そして、懐かしい世界に生きる彼女に手紙を書いた。
◆
馬車の中は、もっと沈黙が続くものと覚悟していたのだが。リズが、心地よい馬車の揺れに身体を任せながら、流れゆく景色を寂しい気持ちで眺めていた時、アルベルトから渡された一枚の手紙。確かに先日、彼女宛に手紙を書いた。
「覚悟が決まった。」と、ウィルフレッドに手紙を書いた後、ふと思い立って書いた手紙だったが、まさかその返事をこんなにすぐに受け取ることになるとは、全く思っていなかった。
よくある白い封筒に入れられたその手紙は、封筒を太陽に透かして見れば、中身が読めてしまいそうなほどシンプルなもののようだった。
「手紙というより、メッセージカードね。」と思わず呟けば、「あいつの手紙はいつもそんなもんさ。」と、アルベルトが自分の事でもあるかのように、申し訳なさそうに笑った。
用意された馬車は、見た目はとても簡素なものだったが、内装はとても居心地よく作られていて、ソファも馬車の揺れが気にならないぐらいにちょうど良い柔らかさだった。王族がお忍びで使うものらしいと、アルベルトが教えてくれた。馬車の御者台には、二頭の馬の手綱を握った御者と、騎士団から派遣された護衛だろうか、二人が商人のような格好で乗っている。ギュッターベルグまでの道は、最北端の地であるにも関わらず、それなりに整備されていて、ひどく揺れることはないだろうとアルベルトは言った。
車輪の音にも慣れてきたころ、彼が胸ポケットから出したのがこの手紙だ。宛名も差出人の名前も何もない。それでもそれが彼女からのものだと、リズがすぐに気がついたのは、持ってきたのがアルベルトだったからだろう。
リズはアルベルトから手紙に視線を戻し、そっと開けてみた。
Dear 莉愛
念願の隠しルート、突入おめでとう!
ゲームを終えてまた会えたら、もう一度、友達と呼んでくれますか? 斜め後ろの席で、あなたが学校に来ることを待っています。
また一緒に、この愛しい世界を冒険しましょう。
From レティ・ブラン 小山内直美
今となっては懐かしくも感じる、そんな書き出しの手紙。最後に併記された字に目が止まる。しばらく考えて、———まさかと思う。
グループの子達とうまくやることに必死で、他のクラスメイトのことはあまり記憶に無い。でも確か、そんな名前だった気がする。
さらっと添えられた、私が大好きだった漫画の名セリフ。
彼女は私を知っている?
私も彼女を知っている?
小山内…さん?
「あいつ、何だって?」
アルベルトの声で、現実に引き戻される。ちょっと体勢を傾けて、手紙を覗きたそうにしていている子供っぽいその仕草に、リズは思わず笑った。
「帰ってくるのを、待ってるって。」
そう答えると、アルベルトはちょっと固まってから「それだけ?」と呆れたような顔をした。
「あいつ、だってすごい興奮状態で色々説明してたんだぜ。俺にはチンプンカンプンだったから、きっとそれを手紙に書いたんだとばかり…。」と、言葉が尻すぼみになっていき、「あの、バカ。」と最後に呟いた。リズは、思わずと言ったように吹き出した。
「これ以上無いくらいの手紙よ。」と、リズは微笑んで、手紙をそっと封筒に戻す。
「Dear 莉愛」とは、———きっとそういうことなのだろう。
不安が無くなったと言えば嘘になるが、それでも彼女の手紙には「隠しルート」だと書いてあった。シナリオ通りということだ。
そして、この先にあるものがハッピーエンドだったとしても、ゲームオーバーだったとしても、私には向こうで会わなければいけない人が、いや、会いたい人ができたのだ。全てこの手紙のおかげだ。
「確か、バグに見せかけたなんちゃらで…。」
アルベルトがこめかみを押さえながら、レティの話を必死で思い出しているようだ。楽しくて、そのまま聞いておく。バグとか、意味わかってるのかな。———と、思わず笑いそうになる。
「新入生歓迎パーティーがどうのこうの言ってたんだけど…ダメだ。全然、思い出せない。」と、背もたれに寄りかかる。「あいつの話は知らない単語ばっかりで、呪文みたいに聞こえるんだよな。」とアルベルトが肩を落とす。
「ふふっ。」思わず声が出てしまう。「あははっ。」と、リズが声を出して笑えば、アルベルトも困ったような顔をして、笑った。
怖いけど、怖くない。きっと、彼女が待っていてくれる。
リズは手紙を胸に当てる。彼女と過ごすこの先の人生は、きっと楽しいだろうなと思う。
◆
「概ねの予想通り、魔王復活の情報は全く出なかった。」
商業ギルドから帰ってきたレオナルドは、先ほどアルベルトが座っていた席で、朝読み損ねた新聞を開きながら言った。ギュッターベルグ伯の元に騎士団が派遣されたという報告と、戦争の可能性があるためギュッターベルグへの輸送ルートの使用制限を各商家にお願いしたいといったような王宮からの通知があっただけだった―――と、レオナルドはやや納得のいってない顔で言う。
ネリおばさんがお茶を淹れてくれいる音を聞きながら、レティはソファに寛いで目の前に置かれたクッキーを摘まんでいる。朝、アルベルトが来た時にネリおばさんが出してくれたものだ。
「それで、アルベルトはなんだって?」
レティの横に座っているロベルトにそう聞かれ、レティは押し黙る。
―――あれ? アルベルト、なんか言ってたっけ?
「顔が見たくて。」
すっかり忘れていたそんな甘い言葉を思い出し、レティは真っ赤になる。レオナルドが、黙ってしまったレティに気が付いて、新聞から顔を上げ―――真っ赤に染まったレティの顔を見て、渋い顔をした。
「まあ、期待はしてなかったけどな。」と、ロベルトが苦笑した。
「アルベルト君が来てたのか?」と、レオナルドが聞くと、「朝、父さんが出かけてすぐ後さ。あまり時間は無いって言って、レティと喋るだけ喋ってすぐまた出てっちゃったんだけど。」と、ロベルトが答えた。
「そうか。」と呟いて、レオナルドはもう一度レティの顔を見ると、再び新聞に目を戻す。
「ギュッターベルグについての情報は、特に何も無かったけど!」
レティは名誉挽回とばかりに急いで繕って、「でも、聖女を迎えに来たって言ってた。」と言えば、レオナルドがまた新聞から顔を上げた。
「聖女?」
ロベルトが、身体を前のめりにして聞いてくる。まあ正しくは、「ある人を」と言っただけだったが、聖女を迎えに来たことは間違いないのだ。
「そう、聖女。聖女を迎えに行ってギュッターベルグに連れて行くんだって。魔王を封印するためにってことでしょ。」
レオナルドが、また渋い顔になる。それが本当にアルベルトからもたらされた情報なのか、ただのレティの妄想なのか…それを見極めようとしている顔だ。ロベルトに至っては、既に「またか。」という顔をしている。
「本当だってば!」
そう怒ったように言えば、二人は揃って苦笑した。
―――今までの自分が恨めしい。この先、何が起こるか知っているというのに、おそらく全て妄想だと切り捨てられてしまうに違いない。
(でも、まあ、私にできることはもう何も無いんだけどね。)
後の事は、過去の自分に託した。とにかく皆が、無事にハッピーエンドを迎えられますように。そう願うだけ。
ネリおばさんが淹れてくれたお茶を口に含めば、温かいものが喉を通っていくのを感じる。レティは、昔の友の事を考えていた。
事態が動いたのは、それから数日後のことだった。
「号外でーす! 号外でーす!」
お使いを頼まれて書類を届けたその帰り道、いやに騒がしい人ごみを見つけた。どうやら、号外が配られているらしい。レティは急いで駆け寄って、それに群がる人ごみの中から手を伸ばし、その一枚を受け取った。
新聞に踊る「聖女降臨」の文字。写真は無いけれど、きっとリズさんのことだろう。彼女はきっとあの修道院跡地で、二百年前の聖女の痕跡を見たのだ。
「聖女の日記」と言われて、渡される学生手帳。
ワードローブに吊るされた、生徒手帳と同じ校章のついた制服。
女神リリアの像の前で、その像と同じ顔をした彼女の記憶が流れ込む。
―――あのイベントシーンは、秀逸だった! 隠しルートにしておくのがもったいないぐらい。
莉愛が動画に撮ってまで、わざわざ見せにくるはずだと思ったほどに。
そんな風に考えてしまうのは不謹慎だろうか。現実なのに、ゲームの事なんだもの!———レティの心は、複雑だ。
号外の声が、離れていく。騒めきも少しずつ落ち着いてきてはいたが、それでも皆が浮足立った様子なのは仕方が無いことだと思う。新聞には、ギュッターベルグの地に聖女が突然現れたこと、そして彼女が魔王の復活を予言したことが書かれていた。皇太子殿下の廃嫡騒動から、ここまでの一連の流れをまとめた年表のようなものも載っている。全ては運命だったかのように、大袈裟な言葉が連なっていた。
異世界に落ちてしまった、二百年前の聖女。
山岳信仰と女神リリアとギュッターベルグ城。
―――帰れなかった聖女に出会ったリズは、何を思っただろうか。
私の手紙が、彼女の背中をそっと押せたらそれで良い。だって、私は彼女が帰ってきてくれて、本当に幸せだったのだから。それが、彼女の勇気になってくれれば良い。
レティは号外を綺麗に折りたたみ、腕に抱えて速足で帰路についた。
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