第二編第三章第一節 女帝の教室

東京都港区台場

フジテレビ本社

令和十年二月二十八日(月)


 今日は佐藤大臣が内閣総理大臣臨時代理としての答弁をこなすため、衆院予算委員会が衆院第一委員室で朝から開催されている。

 議員が銃剣下の国会への登院を拒否し委員会・本会議の定足数を割らないよう、議員宿舎には陸自のパジェロ部隊が直々の『お出迎え』をしていた。

 俺はと言えば、民放のワイドショーに出演を命令された雪緒の『マネージャー』としてテレビ局にいる。今日の佐藤大臣の警護は、班長と副班長で担当するようだ。

 少なくとも雪緒は名目上、佐藤大臣のSPだ。だが大臣は臨時内閣の広告塔としての任務を重視し、警察のSPをさらに雪緒につけていた。

「……まったく、なにが悲しくてSPがSPの警護をせにゃならんのだ」

 ロビーに座りながら、警察のSP氏が毒づく。彼はロビーに置かれたテレビに流れる、NHK衆院予算委員会の中継に目をくべていた。

「防衛大臣・佐藤優理也。民族社会主義日本労働者党の初代総統。陸上自衛隊出身で、防衛族の衆議院議員。横須賀市生まれ、同志社大学神学部卒業。国会に自衛隊を入れるとは、議院警察権なんか完全に無視してるな、こりゃ。キレイな顔しやがって、一体なにをやらかそうってんだか……どう思うね、自衛隊の兄ちゃん?」

「あ……俺は下っ端ですから、そういうのはよく……」

 制服姿の俺に話を振ってくるSP氏。だが俺は満足に答えらしい答えも返せず、画面の中の佐藤大臣に見とれていた。

 凛々しい口調に、切れ長の鋭い眼差し。そして長いまつげ。政変の実情を知らない者にとっては、国家の危機に立ち向かう頼もしい指導者に見えることだろう。委員室では野党の議員がテロ事件の究明に続き、おとといの国家公安委員長罷免事件を追及しているところだった。

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