第13話 剣術稽古





 鬼ごっこでの筋肉痛を魔力操作によって超回復することを一週間行った。


 体が作り変わる痛みを何度も味わい、そしてフリックには何度も魔力を操作してもらった。そのおかげで俺は魔力を操作する感覚を掴むことが出来た。


 しかし俺はフリックほど流麗に、速やかに魔力を流すことは出来ない。フリックのように出来るまでどれほどの時間がかかるのか分からないが、必ず追いついてみせる。


 そして今日から新たな稽古の始まりとなる。




 ◆◆◆



 朝、俺とフリックはお互いに木剣を腰に指していた。


「それにしても坊ちゃんは才能がありますね。私が魔力操作の感覚を掴むまで一ヶ月はかかりましたが、坊ちゃんは一週間でそこには至りました」


「そうかな?」


 フリックにそう言われ嬉しくなる。


「しかし慢心してはいけません。そうすれば落ちぶれるだけですからね」


「わかった」


 より気を引きしてめ取り組まなくては。


「では、剣術の稽古を始めましょう」


「うん」


「剣術には有名剣術なるものがあります。強力な一撃を放つ【至天流してんりゅう】、素早い動きで敵を撹乱し攻撃をする【雷動流らいどうりゅう】、相手の攻撃をいなし、受け流しカウンターを狙う【水風流すいふうりゅう】。この三つの流派が三代流派と呼ばれています」


「他にも流派はあるの?」


「ええ、多くの剣術流派が存在しますがこの三流は五英雄が一人、【剣聖】が生み出した剣術とされているため、剣を学ぶ者の多くが三流派のどれかを選びますね」


「じゃあフリックも三つのうちのどれかを学んでるの?」


 フリックは少し言い淀み、言いづらそうにしながら俺の質問に答た。


「私はいろいろありまして三流派それぞれを学びました。この三流派の剣術を扱うこともできますが、私が得意とする剣術はまた別の流派になります」


「凄っ!」


 思わず思ったことがまま口から出てしまった。しかしそれも仕方の無いことだろう。三代流派と呼ばれる有名剣術を扱い、それとは別の流派の剣術も納めている。


 これは俺でなくても誰でもわかるほどの凄まじいことだろう。一体このフリックと言う男は何者なんどろうか?


「坊ちゃんにはどの流派を学んでいただくか決めてもらいます。そのためそれぞれの流派の技をお見せしましょう。それを見て最も心が熱くなるもの、気に入ったものを選んでください」


 そう言ってフリックは俺から距離をとった。


 三十メートルほど俺から離れるとフリックは木剣を大上段に構えた。


「では行きますよ」


 俺へと声を一言かけるとフリックの纏う空気が変わる。離れている俺にも伝わるほどの威圧感。俺は体を押さえつけられているようなその圧力に息を飲む。


「フッ!」


 一息で大上段から木剣を振り下ろす。ただそれだけの動作だがその威力は凄まじかった。


 フリックから放たれた斬撃は木剣であるにもかかわらず空気を裂き、地面を割って、十数メートル先の気を切り倒した。


 その光景に俺は空いた口が塞がらなかった。


「これが至天流の奥義へと繋がる技の一つ、剛斬ごうざんです」


 一息つくとフリックはまた構えを変える。今度は木剣を中段構えに。


「では次の技に行きます」


 次の瞬間「ヴォン!」と音と共にフリックは姿を消し、俺の目の前まで移動していた。


 俺はフリックの姿を瞬きもせずに見ていたのに移動する姿が分からなかった。


「今見せた移動法が雷動流の基本であり奥義でもある技、瞬歩しゅんほです」


「いつの間に…」


「空を走る雷のように目にも止まらぬ速さで動く、これが雷動流なのです。では次に行きます」


 またフリックは俺から距離をとる。しかし今度は先程よりも近い。


「三つ目の水風流は受けの流派です。その相手の攻撃をどう受けるかを見せたいのですが、今回は仮想の敵を相手しているとして坊ちゃんにお見せします」


 短く息を吐きフリックは脱力する。木剣をただ持っただけの体制に見える。


 そして一呼吸置きフリックが動く。


 俺はその動きに目を奪われた。流麗に、なめらかに、軽やかに、まるで剣舞をしているようなその動きは本当に敵と対峙しているのか疑ってしまうほどの美しさだった。


「これが水風流の受けの方、流連りゅうれんです」


 木剣を腰に収めたフリックが言う。


「どうですか?三つの流派の中で学んでみたいと思ったものはありますか?」


 フリックが見せてくれた三つの流派はどれも凄まじかった。俺はその技を見せられて心が踊り、熱くなった。三流派全てを学んでみたいと思うほどだ。


 しかしそう思いながらも俺には気になることがある。


「フリックが見せてくれた三つの流派はどれも凄くて全部やってみたいと思った。でも一つ気になることがある」


「なんですか?」


「フリックが三代流派よりも得意だって言った流派ってどんなの?」


 俺の問にフリックは眉をひそめた。


「私が得意としてのは流派と言っても私個人の剣術みたいなものですよ」


「そうなの?」


「はい、言ってみれば過去に廃れた流派なのです。なので坊ちゃんには三代流派のどれかを学んでもらいたいのです」


 俺に三代流派を習って欲しいとフリックは言うが、しかし俺はフリックが最も得意としている剣術を、その流派を見てみたいのだ。


「フリックは最も心が熱くなったもの、気に入ったものを選べといった。まだ選択肢があるなら俺はそれも見てみたい」


 フリックの目を見つめ言う。俺の思いが伝わるように。


「わかりました」


 根負けしたのかフリックは仕方のなさそうに肩をすくめる。


「では私が最も得意とする剣術を坊ちゃんに見せましょう」


「本当?」


 俺は弾んだ声でそう答えた。


「今から見せる剣術は対人、対多数を得意としたものです。その名を【一色舞心流いっしきぶしん】と言います」





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