第10話 稽古 一日目
翌日、俺は今屋敷の中庭にフリックと二人で立っていた。それは昨日俺が頼んだ戦う力を付けたいと言ったからだ。
お互いに動きやすい衣服を着ている。俺は何も持っていなかったがフリックは腰に木剣を下げていた。やはり剣の稽古をするのだろうか?
「では坊ちゃん、始めましょうか」
そう告げたフリックはいつもの優しい表情ではなく、肌がピリつく様な鋭い表情をしていた。
それを見て俺は唾を飲み込んだ。あんなフリック飲み込んだ顔を今まで見たことがなかったからだ。
「まず初めに坊ちゃんにお聞きすることがあります。坊ちゃんは戦う力を付けたいとおっしゃいましたが、剣術、槍術、弓術、体術など様々な武術がありますが何を学びたいのですか?」
「…剣術、」
「それは何故ですか?」
剣術を選んだ理由、それはゲームで見た俺が剣技を主体とした戦い方をしていたからだ。
ゲームでの俺は悪名ばかり轟いてが、その前は剣の腕前が評価され名を挙げたでいたのだ。
だから俺には剣を振るう才能というものがあるのだろう。剣技を磨けばそれだけ強くなることができ生き残れる可能性が高くなってくる。
だから学ぶとなれば剣術にすると決めていた。
「それが俺にあっていると思ったからだ」
フリックは小さく頷き腰に提げた木剣に触れる。
「分かりました。では坊ちゃんに剣術をお教えしましょう。幸い私は武術の中で剣術を最も得意としていましたからちょうど良かったです」
だから木剣を持ってきたんですよ、と微笑む。
「では稽古を始めましょう」
「うん」
「最初に行うこと、それは体を動かすことになれることです」
「?」
俺は戸惑った。剣術の稽古をやるのだからまずは素振りとか剣になれるとかから始めると思ったからだ。
「何事もまずは体の動かし方を知らなければ話になりません。坊ちゃんは十歳である程度は飛んだり跳ねたりして体を動かしていると思いますが、それではまだ足りません」
そこで一旦言葉を切り、フリックは両腕の裾をまくった。
「坊ちゃんには今から私と鬼ごっこをしてもらいます」
「えッ?」
◆◆◆
──地獄のようだった。
俺は今自室のベッドの上に倒れていた。そのれはフリックとの稽古、いや鬼ごっこが原因だった。
「鬼ごっこって言ったから少しガッカリしたけど、甘く見ていた……」
フリックが言った最初の稽古、鬼ごっこ。それがとにかくきつかった。
フリックのスタートの合図とともに俺は逃げるようにと言われその通りにした。そして十秒後フリックは俺を捕まえるために追いかける。そこまでは普通の鬼ごっこと一緒だ。
しかしフリックが行った鬼ごっこは違った。
逃げる俺をフリックは一定の速度で追いかけ続けるのだ。
ジグザグに走っても、木の裏へと回り込んでみても、飛んでも跳ねてもフリックはピッタリ俺の後ろを一定のスピードで追いかけてくる。それも笑顔で。
それはもう怖かった。本当に捕まってはいけないと思ってしまったどだ。
そんな鬼ごっこを休憩を挟みながらやり続けた。その結果俺は走り疲れてしまったのだ。
「たった一日でこんなにキツイなんて、これをあと一週間もやるなんて」
フリックは疲れて倒れた俺に向け無慈悲にもこう告げた。「この鬼ごっこをあと一週間やります」と。
地獄だ。そう思い俺は目の前が真っ暗になった。
そこで気絶した俺をフリックが屋敷へと運び、汗で湿った服を着替えさせて自室へと運んだらしい。
それをさっき気がついた時にシスベルに聞いた。
フリックに着替えさせられたと聞いて恥ずかしく思ったがそれは気絶してしまった俺が原因だ。
それに気持ちを切り替えなければならない。いくら地獄のような鬼ごっこがあと一週間も続くとしてもそれが将来生き残ることに繋がるのならやるしかない。
そう気持ちを強く持ち俺は夕食とシャワーを軽く済ませて明日の稽古のためにすぐ眠ることにした。
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