第9話 夕食とサプライズ


 やっぱり書き続けます。読んでくれると嬉しいです。




 ◆◆◆





「また来てくれよォ!」


 そう言って俺たちを見送る魔道具店の店主フェイの声を聞きて店を後にする。


 そして俺とフリックは屋敷へ帰るためにと足を進める。


 魔道具店にいた時間が長かったのか、空は茜色に染まっていた。


 帰り道を西日が照らし眩しい。


 そこで俺は誕生日プレゼントとしてフリックに買って貰った魔道具ヌーンナイトをかけてみることにした。


 見た目はただのサングラス、その効果通り西日の光が軽減され眩しくなくなった。


 しかしこの魔道具の真価は夜の闇夜でも効果を発揮する事だ。だか俺はまた夜に使ってみようとは思いながら、ヌーンナイトをかけ続けたまま歩いた。




 ◆◆◆




 屋敷へと帰ってきて俺は自分の部屋で少しだけ休んでいた。それもフリックに「夕食の時間まで部屋でお休みになってお待ちください」とは言われたからだ。


 ベッドの上へと寝転がり天井を見上げる。


 転生したと気づいてから半日くらいたった。その中で俺自身の記憶の整理がついた。


 前世での俺の名前や姿形、パーソナルデータとでも言うのだろうか、それらは思い出せなかった。覚えているのはゲームの事と転生直後のことだけだ。


 思い出せなかったのは少し残念だが仕方後ない。それに俺はクロロとしての記憶があったのだ。


 クロロとして生まれこの歳まで過ごした記憶を思い出した。ゲームの知識とこんがらがってしまっていたがちゃんと記憶が整理され今ではもう自分がクロロ・ルシウスであることになるら疑問を抱かない。


 そうしているうちにノックの音とともに声がする。


「クロロ様、お夕食の時間でございます」


 どうやら時間のようだ。ベッドから降り部屋を出る。部屋の前で待っていたのは眼鏡をかけた黒髪の女性だった。


 白と黒の2色を使ったメイド服を身につけ、背筋をピンと伸ばして立っていた。


「もう時間か?【シスベル】」


「はい、では食堂へ参りましょう」


 無表情でそう答えるシスベル。彼女はこの屋敷で働く使用人でメイド長を務めている。


 如何にも仕事のできる女性という雰囲気をまとい、実際にその手腕は完璧だ。


 俺の記憶では俺がもっと小さい時からこの屋敷で働いている。彼女の年齢が気になったが怖くて聞くことは出来ない。多分フリックより少し年下ぐらいだと思う。まぁフリックの年齢も正確には分からないが。


 そんなことを考えていると食堂へとついた。シスベルがドアに手をかける。


「ではお入りください」


 その声とともにドアが開かれる。


 目に飛び込んできたのは煌びやかに輝く灯りに、テーブルに並べられた品の数々。


 ローストチキンにローストビーフ、ポテトやサラダが皿の上に綺麗に飾られ見ているだけで食欲がそそられる。


 席へと案内される。食堂の脇には多くの使用人達が並んでいた。フリックが代表で一歩前へとでる。


「坊ちゃん十歳のお誕生日誠におめでとうございます」


 フリックの声に続き使用人達も頭を下げ祝いの言葉を告げる。


「ありがとう」


 これだけの人に祝われると照れよりも壮観という気持ちが勝り、感謝の言葉を素直に言うことが出来た。


 その後は食事を楽しんだ。料理はどれも美味しかった。こんな美味しいものは前世でも食べたことが無い。まぁあまり覚えていないけれど。


 お腹いっぱいまでそれらを食べた。食後にはリンゴが使われたデザートが出てきたがその時点で俺は満腹だった。しかしデザートを食べないという選択肢は皆無。苦しくなりながらも皿を平らげた。


 水を飲んで一息つく。お腹いっぱいでもしばらく動けそうにない。そう思っているとフリックから声がかかる。


「どうでしたか今夜の夕食は?」


「とても美味しかった」


「それは良かったです」


 そんな夕食の感想を少し話した後俺はフリックとともに自分の部屋へ向かう。


 そして部屋のドアを開け中に入ると目の前に大きな包が置かれていた。


「…なんだこれ?」


 不思議に思い首を傾げる。そしてフリックを見た。するとフリックは嬉しそうに微笑んでいた。


「フフ、坊ちゃんサプライズですよ!」


「…?」


 それでも俺は首を傾げていた。サプライズそれは俺の誕生日のことだったと思うがフリックが口を滑らせ俺にバレてしまった。だからそれは終わったと思ったのだが、


「坊ちゃんへのプレゼントを内緒で部屋に運んでたんですよ」


「プレゼントならもう貰ったけど…」


「こちらが私からのホントのプレゼントなんですよ。魔道具店で買ったものはこちらを隠すためでした。坊ちゃんに誕生日のことがバレてしまいましたからね」


 と得意げにフリックは言った。そこまでサプライズがしたかったのだろうか?けれどその気持ちはとても嬉しい。


「中身は何なの?」


「それは開けてみてからのお楽しみです」


 包みを開けると中に入る大きな布と骨組みが入っていた。


「それはですね、自立式のハンモックなのです」


「ハンモック?」


「ええ、坊ちゃんはお昼寝がお好きですからね。そのハンモックがあればどこでもお昼寝ができるようになりますよ。組立式で持ち運びも可能ですからね」


 確かに俺は昼寝が好きだ。俺に合わせたこのプレゼントはとてもいい。


「ありがとうフリック」


「いえ」


 俺とフリックはお互いに笑いあった。俺の十歳の誕生日は笑顔で幕を閉じた。







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