第7話 誕生日



「誕生日?」


 その言葉が引っかかった。


「あぁ〜私としたことがうっかり口が滑ってしまいました」


 フリックはアハハと笑い頬を軽く掻きながら言葉を続けた。


「えぇまぁそうです。今日は坊ちゃんの誕生日ですよ。坊ちゃんはご自分の誕生日を気になさりませんし毎年お忘れになりますからね」


「今日は俺の誕生日だったのか」


「そうですよ。本日八月十四日は坊ちゃんの誕生日です。それに今年は十歳を祝う誕生日ですからね、盛大にお祝いしようとサプライズしようと思っていたのですが」


 それがフリックのうっかりで俺にバレてしまったということらしい。


「バレてしまったからには仕方がないですね。サプライズは出来ませんでしたが」


 そこでフリックは言葉を区切り姿勢を正し、


「坊ちゃんお誕生日誠におめでとうございます」


 丁寧に頭を下げて祝いの言葉を告げた。俺は突然の事だったので戸惑うことしか出来ず目をウロウロさせていた。


 その様子を微笑みながらフリックは見つめていた。そして胸ポケットから銀の懐中電灯を取り出した。


「夕食のディナーまではまだ時間がありますね。そうだ、サプライズもバレてしまったことですし今から坊ちゃんへとプレゼントを買いに行きましょう」


 手を叩いて告げたその提案に俺は疑問を覚える。


「それは俺がついていっていいものなのか?」


「いいでは無いですか坊ちゃんの欲しい物をプレゼントするので好みが外れることはありません」


 それはそうだ。俺が欲しいものを選ぶのだから好みもクソもない。何故なら選んだものが好みで欲しいものだからだ。


 フリックは何事も完璧にこなすことの出来る人物に見えるが意外と天然なのかもしれない。そう思った。


「そうと決まれば早速商店街へと参りましょう」


「いや、俺は行くとは言ってないぞ!」


「まぁまぁそう言わず、さぁ行きましょう!」


 俺は強引に背中を押されながら本日二度目の街へと繰り出した。




 ◆◆◆




 フリックに連れられ街の商店街へと来た。俺が散歩の時に見た屋台などの店とは違い、そのには武器屋や服屋などの専門店が並んでいた。そんな中をフリックと並んで歩いていた。


「さぁ坊ちゃん何が欲しいですか?ここには色んなものが売っていますから坊ちゃんの欲しいものが必ずあると思いますよ」


 何が欲しいかと聞かられても困る。今欲しいものは知識と戦う力だが、それはフリックに頼み事として言ってしまっている。それに今聞かれている欲しい物とはそういうことでは無い。


 俺自身の誕生日を祝うためにフリックがプレゼントしてくれるのだ。前世では誕生日にプレゼントを貰うということが無かったためこんな時、何が欲しいと言われても思いつかないのだ。


 欲しいものが浮かばす悩んでいたが、その時ひとつの店が目に止まった。


 その店は白い外壁で覆われ、看板には《魔道具店》と大きく書かれていた。そして何より、目を引くのが屋根の上にある物だ。それは大小二つのリングである。リングは重なり合いながら回転し、そして宙に浮いていた。


 その光景に俺は衝撃を受けていた。この世界がファンタジーゲームの世界だとはわかっていたが、それを実感させる物だった。


 その魔道具店は商店街にある店の中でも特に浮いていて特徴的だ。


 フリックは俺の目線に気づき、同じ店を見る。


「あぁ、あれは魔道具店ですね。あの店が気になるのですか?」


 俺は驚きから立ち直っておらず「あぁ」とただ声が盛れるだけの返事しか出来なかった。


「ではあの店へと入りましょうか。店主が少し変わった方なのですが、取り扱う品は素晴らしいのですよ。きっと坊ちゃんの目に留まるものがあるでしょう」


 そう言って俺はフリックに手を引かれながら店の中へと入っていった。

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