第6話 頼み事
屋敷へと戻りフリックのことを探す。フリックが厨房へと向かっているところを見つけのだが、彼は何やら荷物を抱えていた。
それが何か気になったが、とりあえずフリックを呼び止めることにした。
「フリック」
俺に名前を呼ばれたフリックは立ち止まりこちらに顔を向ける。
「おや?お早いお戻りですね坊ちゃん。もう少し帰るのが遅くなるのではと思っていました」
「少し話があるんだ」
「そうなのですか?では少々お待ちください」
そう言ってフリックは厨房へと入っていきすぐに出てきた。
「では私の部屋でお話を聞きましょう」
案内されたフリックの部屋はシックな家具で統一され、落ち着いた雰囲気をしていた。
すすめられた俺はソファに腰掛け出された紅茶を飲む。
「それでお話とはなんでしょうか?」
「フリックに頼みがあるんだ」
「頼みですか?」
「ああ、知識と戦う力をつけたい」
俺は簡潔に頼み事を告げた。その方が分かりやすいと思ったからだ。
「知識と戦う力、ですか。それはどうしてなのですか?」
その理由をどう伝えるか少し悩んだ。『死ぬ未来があるから力をつけたい』と素直に伝えるのではダメだ。それを言ったら正気を疑われるか巫山戯ていると思われる。
だから俺は、今日見たことからその理由を探した。
「今日街中を散歩してハンターギルドに立ち寄ったんだ。中には入らなかったけど、外に張り紙があってそこに指名手配されてる人達を見た」
『指名手配』その単語にフリックの眉がピクリと動いた。しかしすぐに元の穏やかな表情へと戻る。俺は気のせいかなと思い話を続ける。
「クース・タサロンとデイビッド・マラディトスって言う人物がそこに書かれていた。どちらの人物も大量殺人をしたとあった。俺を見て俺は怖くなったんだ。こんな人がもし近くにいて襲われたなら簡単に死んでしまうって」
そこで一呼吸置き、フリックの目を見る。
「だから俺は色んな知識をつけて、戦う力を身につけたいと思った。そうすれば、いざと言う時に身を守ることくらいできると思って」
強い思いがある。そう伝わるように目をそらさずに言った。
「そうですか」
フリックはそう言って紅茶を一口飲んで目を閉じた。
「その決意は硬いのですか?」
目を閉じたままフリックは問うた。それに迷うことなく「ああ」と肯定する。
答えを聞き少ししてフリックは目を開けた。
「分かりました。御館様からは自由にさせろと言われていますから坊ちゃんの頼み事を聞きましょう」
御館様とは俺の父親であるグノワール・ルーゼニクスのことだろう。自由にさせろとは俺に無関心なだけはある。
とりあせず頼み事が聞き入れられたことにホッとしたので紅茶を飲み直す。少し冷めていたが俺は猫舌だからちょうどいい温度だった。
「知識と戦う力と言いますが具体的にはどのようなことかは決まっていますか?」
「王国のことやその歴史、そして魔法の事や剣術を学びたい」
今思いつくのはこれくらいだ。ここはゲームの中の世界だが俺にとってはここが現実世界だ。国や歴史について知るのは大切なことだし、魔法や剣術を学ばぶことはファンタジーのお約束だろう。
「そうですか、それならば私が教えられますね」
「そうなのか」
「はい、人にものを教えたことは一度しか有りませんが、坊ちゃんにも教えることが出来ると思います」
フリックは自信ありげにそういった。このフリックという人物はカッコイイだけだは無いらしい。
「とりあえずそれらを始めるのは明日からにしましょう、今日は坊ちゃんの誕生日ですからねもっと楽しいことをしましょう」
「えっ、」
「あっ、」
誕生日、その言葉に俺は驚き、フリックは慌てて口元を抑えた。
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