第3話 状況確認



 俺が決意をしたタイミングで部屋のドアからコンコンとノックの音がなった。


「坊ちゃん入りますよ」


 その声とともに扉が開き人が入ってきた。俺はビクッと少し驚きその人物の方へと顔を向ける。


「おや?今日は起きるのが早くございますね。いつもはもう少しお昼寝をしているのですが」


 そう言って少し首を傾げる人物に俺は見覚えがあった。名前は【フリック・レイド】俺、つまりクロロの世話係をしている30代後半位の男だ。


 ゲームではキャラ絵と少しの説明文しか書かれていなかったが、ダンディでシブかっこいい見た目をしていた為印象に残り覚えていた。


「まぁそんなことより、昼食の時間ですよ坊ちゃん」


 その声を聞きながら俺は焦っていた。この体に転生してから初めての他人との会話だ。どう話せば良いが分からず俺は「分かった」とただつぶやくしかできなかった。


「ふふ、相変わらず坊ちゃんは愛想がないでね」


 フリックは俺のぶっきらぼうに言った事に微笑んだ。どうやらクロロは愛想が無いらしい。ならば今後もそんな感じで接していこう。


(あれ?確か転生する前の俺も親とかに愛想がないって言われなっけ?)


 そう考えると俺は普通にしてても問題ないのではないか?そう思うとなんだか気持ちが軽くなった。


「さぁ食堂へ参りましょう、今日は坊ちゃんの好きなトマトパスタですよ」


 そう言ってフリックは俺の後ろへと周り背中を押して急かす。俺は「分かったから押すな」と先程と同じように無愛想に言いながら歩き出した。


 フリックの先導の元、食堂へと向かう中で俺は自分の置かれた状況を整理することにした。





 俺が転生したクロロ・ルシウスという人物は金持ちの家に生まれた。【ルシウス商会】それがクロロの生まれた家系だ。


 ルシウス商会は300年続く歴史があり、王国一の大商会だ。商会の扱う品は数多く、食料や衣服、武器や防具、更には奴隷と様々な物を取り合っか扱っている。


 そんな大商会の現商会長がクロロの父親である【グノワール・ルシウス】だ。


 しかしクロロは父親であるグノワールと殆ど会ったことがない、何故ならばクロロはグノワールが気まぐれに手を出した町娘との間にできた子供だからだ。つまりクロロは正妻の子供ではない。


 その事でクロロは父親の正妻やその子供たちに嫌われ、遠ざけられている。そして父親であるグノワールもクロロの事を愛してはいない。


 クロロの母親である【リリー】は生まれつき体が弱く、クロロを産んだ時に命を落としている。


 リリーは亡くなる前にグノワールへと手紙を出した。その手紙には『せめてクロロが成長するまで面倒を見て欲しい』と書かれていた。


 それを読んだグノワールは「それくらいは果たしてやろう」と言って別宅と数人の使用人、そして世話係をつけた。


 それから成人する十五歳までクロロはその屋敷で生活することになる。




 それが俺が覚えているクロロ・ルシウスの生まれと、成人するまで状況説明だった。


(なんか性格に問題が起こりそうな生い立ちだな。

 生みの母親は亡くなり、父親からは愛されず、その家族からは嫌われる。そんな状況で育ったならば性格が捻くれてしまうのではないか?)


 これが俺が破滅へと向かうことになる最初の要因だと気付いた。


 しかし、今は俺が転生している。そのため自分の生まれや環境に影響を受けていない。そして俺自身、性格は捻くれてもいない。だから破滅の要因の一つが無くなったも同然だ。


(そう考えると案外生き残るルートを作るのも簡単かも?)


「食堂へ着きましたよ」


 フリックのその声を聞き、俺は思考を現実に戻す。目の前には両開きの扉があった。


(そういえば前世では飯食べずに死んじゃったな、そう思うとお腹空いてきたぞ。俺もトマトパスタは大好きだから楽しみだな)


 俺を待つトマトパスタへ向け俺はその扉を両手で開け放った。


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