人さらいと夢

「なーんか、気配はしてたんだけどなかなか本体が出てきてくれなくてさ。しかも今回はかなりデカいやつだから....。」

魔獣人さらい】は私たちの世界で言うところの幽霊や妖怪と同じようなもので、見た目は見る人によって変わる。そいつらは夢とか希望とか、人間にとってプラスになるエネルギーを栄養にして膨れ上がる。


「行きませんよ?」

 この話の流れは絶対に、人さらい退治を手伝わされることになりそうなので次の言葉が出る前に断っておく。でも、全部聞こえないふりをされて流される。


「んー....というわけで....。今回も手伝って貰えないかな....?」


「いや、さっきの聞いてました?私は行きません。絶対に。」

 もう何度か手伝わされたことはあるけれど、毎回毎回酷い目にあうから今回こそはちゃんと断ろう。

 私がそう言って断ると、ルナさんはサッと猫に変身して私の部屋を出ていった。

 窓が開いたままの部屋には、夏なのに少し冷たい風が入ってくる。

 明日も早いし、早く眠ろう。そう頭で考えながら目を閉じた。


 ✱✱✱


 目を開けると、私はあの丘の上に立っていた。

 どうしてだろう、さっきまで自分の部屋にいたはずなのに。それに時間もおかしい。部屋にいた時は真夜中だったのに。私の目の前には大きな黒い霧のようなものが形を変えながらふわふわと動いている。


『あれは....!』

 間違いない、あれは....魔獣人さらいだ。

 私に気づいたのか、その黒い霧はこちらに向かって進んでくる。さっきまでゆっくりふわふわと動いていたのに、私の方へ向かってくる速さはまるで台風の風のようだった。


『まずい...このままじゃ....。』

 このままでは、あの時のように全部持っていかれてしまう..。と思ったけれどもう遅かった。


『うわっ!』

 黒い霧は勢いよく私の方に近づき、私の周りをかこんだ。


 ✱✱✱


「....い...おーいっ!」


「え......?」


「魘されてたけど、大丈夫?」

 目を開けると、目の前にルナさんが立っていた。どうやら夢を見ていたらしい。そういえば、最近よく見る夢だったような気がする。


「大丈夫?すごい魘されてたけど....。」

 そう言うルナさんの顔は半泣きだった。


「大丈夫です。あの...魔獣人さらいはどうなったんですか?」

そう言うと、ルナさんは困った顔をして。


「実は。また引っ込まれちゃった。今回のは本当に手強くて....。」


「そうですか....あの...さっき見た夢の内容話してもいいですか?」

私がそう言うと、ルナさんは真剣な顔で『聞かせて?何かヒントがあるかもしれない。』と。

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