月猫

七瀬モカᕱ⑅ᕱ

ゆうひヶ丘

 もし、人間の目には見えないようなものや物語の中でしか出会ったことのないものに今出会ったとしたら、普通の人はどんな反応をするのだろう。

 私たちの住むゆうひヶ丘には怖い噂がたくさん存在している。

 たとえば、『夕方の、四時四十四分に丘のふもとの雑木林に入ってしまうと、二度と帰ってこられない。』とか。『夜に黒猫も出会ったら目を合わせてはいけない。』とか。

 こんな噂がたくさんあるからなのか、地名に関しても【ゆうひヶ丘】ではなく本当は【幽日ヶ丘】なのでは?という噂もある

 もちろん、私は全部信じていない。全部作り話だと思っているし、そう信じたい。

 そう、私...兎乃うの彩夏はただのビビりなのだ。それなのに私は、その苦手なものと対峙する機会が増えてしまった。

 これは、そんな私のある夏の話。


 ✱✱✱

 23時半、誰もが寝静まっている時間。突然、寝室の窓を誰かにノックされる。窓の外を見ると、そこには1匹の猫が。


「あっ.....どうぞ...。」

 そう小さく声に出して手招きすると、その猫がすっと私の部屋に入ってきて、一つ大きくあくびをする。


「久しぶりですね、ルナさん。今日はどうしたんですか?」

 猫に声をかけると、さっきまで猫がいた場所には薄紫の長めの髪に、月のひかりのような目の色をした女の子がこちらを向いて微笑んでいた。


「久しぶり。ごめんね、こんな遅くに...魔獣 《人さらい》がまた出たから...。」

 私の言葉に、女の子は少し困ったような笑顔で答えた。


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