第101話 現れた助っ人

「どんだけいてくんだよ。斬っても斬ってもキリがねー」

「思ったよりもハードっすね。もううちの連中は全員やられ、残りはホノカを含む三人っすか……」

 ほのかたちは天高くそびえる十六夜いざよいタワーの玄関げんかん口で、防衛線を敷いていた。ただ現状の戦況はかなり劣性といっていい。レイジたちがどこかに座標移動したあと、ほのかとエデン協会ヴァーミリオンたちは奮闘し結構な数の狩猟兵団たちを倒していった。だが向こうはここら一帯にかなりの数の部隊を配置していたらしく、増援が次々と。そのため次第に数で押されるようになって、気付けばアキラとエリーとほのかの三人だけに。しかも連戦続きによりデュエルアバターの破損具合はもちろん、精神的消耗しょうもうもきびしかった。

「出来ればもう少しだけ時間を稼いでおきたかったですが、この増援の量をさばくのはこちらの消耗具合からして無理そうですね。こうなれば最後に少しでも多くの敵を道連れにするしか……」

 これ以上の時間稼ぎは不可能と判断し、最後は玉砕覚悟ぎょくさいかくご突貫とっかんすべきかと思考をめぐらす。

 そんな中突然、遠くの方でエンジン音が。

 敵の集団の後方に視線を移すと、一台のバイクがこちらに全速力で近づいていた。

「あれはもしかして!」

 ほのかが期待に満ちた目で見つめる中、バイクはスピードを落とさずさらに加速。オブジェクトとして配置されている廃車に、前輪を浮かしながら突っ込んでいった。そしてそのまま廃車に乗り上げ、バイクは空中へと勢いよくとび上がる。そしてそのまま狩猟兵団の集団の頭上ずじょうを飛び越え、ほのかたちが立っている場所のすぐ近くに着地した。

 エンジンを止め降りてきたのは一人の少年。

とおる先輩! 来てくれたんですね!」

「誰かと思えばトオルセンパイじゃないっすか」

 そんな透にエリーと一緒に駆け寄る。

 彼はほのかやエリーより一つ年上で、名前は如月透きさらぎとおる。ほのかと同じ軍人で、階級は少尉しょうい。一見すると温厚おんこうな少年だが、その物腰に一切の隙はない。もはや若くして熟練されたプロの兵士といってよく、デュエルアバターの腕は超一流であった。

 ちなみに狩猟兵団側の方はただ者でない乱入者を警戒してか、ほのかたちの出方をうかがっていた。

「ほのか待たせたね。エリーも久しぶり」

「――えっと、それにしてもすごい登場の仕方でしたね」

「ほんとっすよ。どこかの映画みたいな登場シーンを、ああも華麗かれいに再現するとは。透先輩って案外ああいうのに憧れてたりするんすか?」

「はは、違うよ。今回のは新堂しんどう中尉の命令でね。よくわからないけど遅れて登場するヒーローは演出が命とか言って、この改造バイクを渡されたんだよ」

 二人で彼の派手な登場に驚いていると、透は頭の後ろに手を当てながら苦笑気味にことの真相を教えてくれる。

 どうやらほのかや透の上司である女性、新堂中尉の差しがねらしい。

「――あはは……、やっぱり新堂中尉の趣味でしたか……。透先輩はいつも隠密おんみつ行動が基本ですから、おかしいと思ってたんですよ」

「へぇ、てめぇがよくエリーがうわさしてた、凄ウデの先輩って奴か」

 透と話していると、アキラが急に割り込んできた。

「ボクの名前は如月透。軍人で階級は少尉だ。よろしく」

「おう、俺は紅炎アキラだ。さっそくだが少し手伝え。今こっちとら、奴らをぶっ飛ばすのに人手が足りてねぇんだ」

「任せてくれ。遅れた分、きっちり働かせてもらうよ。だからみんなは少し休んでおくといい。その間にボクがあらかた片づけておくから」

 透は前に出て、優しくほほえみかけてくる。

「ハハッ、この数を一人でやろうってのかぁ? 相手は上位ランクの集まりだというのに、大した自信だな、おい」

 よゆうに満ちた表情で提案する透に、アキラはツッコミを入れる。

 彼の疑問ももっともだ。相手側はそこいらにいる普通の狩猟兵団とは違う。そのほとんどがBランク以上で構成されているため、苦戦をいられるのは明白。そんな相手にたった一人で相手をするのはただのバカか、よほど自分の腕に自信を持っているかのどちらかだろう。もちろん透の場合は後者なのだが。

「フフ、トオルセンパイはすごいっすよ。なんたってこの自分同様、過酷かこく修羅場しゅらばをくぐり抜けてきた歴戦の戦士。その強さはキリングマシーンの如く精確無慈悲な、狩人っすから!」

 エリーは透の両肩に後ろから手を置き、まるで自分のことのように誇らしげに解説する。

「はは、いくらなんでも言い過ぎだよ、エリー。それはボクなんかよりも隊長みたいな人を指す言葉だ」

「まあ、あの人は、自分らの中でも規格外すぎてヤバかったっすからね」

 透とエリーは共通の話題で盛り上がりだす。

 実際のところこの二人の関係はよくわかっていないのだ。昔一緒に戦っていたらしいが、一体どこでなのかは不明のまま。聞いても適当にはぐらかされ、答えてくれないのであった。

「さて、おしゃべりは止めて、そろそろ始めようか。向こうも待ちきれないようだしね」

「少しお待ちを」

 透が一本のダガーを取り出し一歩前に出たかと思うと、頭上高くから少女の声が。

 見上げると二人の人影が降りてきており、強い風を辺りにまき散らしながら着地した。

「ギリギリ間に合ったようですね。みなさんご苦労様です。私はサージェンフォード家次期当主、ルナ・サージェンフォード。わけあって加勢にきました」

「ルナの護衛の長瀬伊吹ながせいぶきだ。自分たちが来たからには、もう安心していいぞ」

 現れたのは誰もが目を奪われるほどの美貌びぼうを持つりんとした少女と、見ただけで凄ウデのエージェントを連想させるただ者ではなさそうな少女である。

「わぁ、ウワサ通り、きれいな人……」

 ルナのきれいな外見ときらびやかなオーラに、もはや見惚れてしまうしかない。

「――あれ、キミはどこかで……」

 ふと透がルナを見て首をひねる。

「ッ!? ――どうしてここにあなたが……」

 するとルナは口元に両手を当て、目を大きく見開いた。

 彼女に関してはほのかも少しは知っている。十六夜学園高等部の生徒会長を務める、完全無欠の姫君ひめぎみと称される有名人。ルナのすごいところはいつも優雅で余裕に満ち、まったく動じないところ。そんな彼女が今、心底動揺しているように見えるのは気のせいではないのだろう。

「ルナ、どうかしたか?」

 伊吹は透を見て固まるルナにたずねる。

 どうやら伊吹はルナの後ろに付き添っていたので、彼女の驚いた表情が見えていなかったらしい。 

「――い、いえ、なんでもありません……。――ご、ゴホン。今は彼らをどうにかするのが先決。この騒動を止めるためにも、ここをなんとしてでも死守せねば」

 ルナは咳払せきばらいを一つして、いつもの凛々りりしい彼女に戻る。

「みなさんどうかもう少しだけお力をお貸しください。行きますよ!」

 ルナは先頭に立ち手を横に振りかざしながら、全員にオーダーを。

 こうしてほのかたち全員は武器をかまえ、狩猟兵団の集団を迎え撃つのであった。

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