第91話 柊戦線による熱い展開?
「
結月は胸で両手を押さえながら、ブラックゾーン手前の
レイジが見回りに出かけてからしばらくして、ブラックゾーンのセキリュティが一か所解除されたらしいのだ。そのため結月たちは急いで現地に向かい、確かめに来たのであった。
「ファントム、レイジはやっぱりこの中に?」
「一度この場所のセキリュティが限定的に解除された
「いやな予感がします。ここは力を使ってでも、レイジの場所にたどり着かないと!」
那由多は深刻そうに目をふせる。そして意を決したように瞳を開き、霧に触れてなにやら作業を。
「柊さんって、改ざんを使えるんだねー」
「サポート系はある程度できますよ! さすがに高位ランクの電子の導き手の方々には、負けてしまいますがねー!」
改ざんは本来、普通のデュエルアバター使いでも使えるもの。狩猟兵団レイヴンに所属する西ノ宮光がその例。彼女は電子の導き手ではないが、ゆきの索敵を回避したりなどで改ざんを使用していた。それもそのはず基本改ざんは、演算力が高ければ使える可能性があるらしい。なのでその特性を生かし電子の導き手の道を選ぶ者もいれば、那由多や光のようにデュエルアバター使い専門であり続ける者も多いとか。
「それで那由他は今、なにをやってるの?」
「あはは、
那由多は胸に手を当て、ふふんと得意げに宣言する。
彼女とは短い付き合いだが、かなり優秀な少女だということはわかっていた。アポルオンの巫女の
「――ですがさすがに相手が最大クラスのセキリュティとなると、分がわるいですねー。この出力では届かないかもしれません……」
ほおに指を当てながら、少し困ったような笑みを浮かべる那由多。
「それはそうよ。だってそのセキリュティは森羅ちゃんが試しても、無理だったんだから」
そうこうしていると、突然誰かの声が割り込んできた。
「――え? あなたたちは!?」
なんと振り返るとそこには
まさか向こうから姿を現すとは。彼女たちの登場に驚きを隠し切れなかった。
「おやおやー、
「ふふふ、まあね! それにしても驚いた! まさか柊那由他もその力を使えるなんて! どうやら同じところの出身だったみたいね!」
森羅は那由多が力を使っているところを見て、意味ありげな視線を向けた。
(力? 同じところの出身? いったいなんの話なの?)
彼女のよくわからない言葉に、結月は首をかしげるしかない。
「こちらは取り込み中なので、話しはあとにしてもらえます? それともわたしたちをここで、
「偶然通りかかっただけで、あなたたちと戦う気はないから! そんなことより森羅ちゃんのレイジくんは? 一緒にいるんでしょ?」
森羅は恋する
そんな彼女の反応に、顔をしかめ危機感をあらわにする那由他。
「――ええい、この反応、やっぱりあなたもレイジ狙いですか……。アリス・レイゼンベルトといい、また厄介な相手が増えるなんて……」
「――えっと、久遠くんならこの中よ、森羅さん。だから那由他にこのセキリュティをどうにかしてもらおうとしてたの」
霧の向こうを指さしながら、状況を説明してあげる。
「――レイジくんが……。なんだろう、胸騒ぎがする……。早く連れ戻さないと、取り返しのつかないことになるような……」
すると口元に手をやり、並々ならぬ不安に駆られだす森羅。
「わたしも同意見です。一刻も早く、レイジのところへ向かわないと……」
那由多もいてもたってもいられないといった瞳で、レイジの身を案じる。
どうやら今の状況は結月が思っている以上にヤバイらしい。
「今、そんな危ない状況なんだ……」
「そうよ、片桐結月。まさに一大事! なんたって森羅ちゃんのレイジくんが、誰かにとられる気がして止まないもの! きっとこの先に泥棒ねこがいるはず!」
森羅は霧の向こう側にビシッと指を突き付け、
「はい! 別の女の子とのフラグが立ってる予感が、ひしひし伝わってきます! このまま放っておくと、最悪那由他ちゃんルートから外れてしまうかもしれません!」
那由多はにぎりしめた
「――あれ? 私が想像してるピンチと違うような……」
二人のどこかずれた主張に、戸惑うしかない。
結月としてはレイジが侵入したことがばれて、敵に襲われているみたいなことを想像していた。だが二人が危機感を
「柊那由他! レイジくんは森羅ちゃんルートに入ってるの! しゃしゃり出てこないでくれるかなー!」
「柊森羅! こちらのセリフです! レイジは那由他ちゃんのもの! そもそもあなたは敵側にいるんですから、レイジを攻略しないでくれますか!」
すると那由他と森羅が互いに距離を詰め合い、視線で火花を散らしながら言い合いを始めた。
放っておくとだんだんエスカレートしていきそうなので、おずおずと仲介に入ることに。
「あのー、二人とも。よくわからないけど、今は争ってる場合じゃないと思うんだけど……」
「片桐結月の言う通りね! 柊那由他、ここは協力しましょう!」
「仕方ありません! 二人がかりでやればなんとかなるかも知れませんし、その提案受けます!」
かなりヒートアップしていたので止められる自信がなかったが、案外すんなり聞き分けてくれる二人。
「どれ、なるほど。一度無理やり許可して開けたのね。このシステムの流れをたどってやればいけそうね! 行くよ! 柊那由他! レイジくんを魔の手から救うために!」
「お任せあれ! この先にいるであろう人物に、レイジは絶対渡したくないですからねー!」
一致団結して全力で事に当たろうと、那由他と森羅は霧に触れ作業を始めた。
もはや二人とも、泥棒猫からレイジを守ることしか頭にない感じに。動機が動機なので敵同士が手を組む熱い展開のはずが、残念な形になってしまっていた。
「――はぁ……、片桐、自分はもう帰っていいだろうか? さすがに付き合ってられないのだが……」
今まで事の成り行きを見守っていたアーネストが、ため息交じりにたずねてくる。
どうやらそうとう頭を痛めているらしい。
「気持ちはわかりますけど本人たちは必死そうですし、手伝ってあげた方が……、あはは……」
結月とアーネストはこのよくわからない状況に困惑しながらも、二人を見守るのであった。
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