第86話 契約のサイン
ファントムから連絡があってすぐ、レイジと結月はエデンへ。現在はクリフォトエリア内の、
今いるところはマンションやビルといった建物がとくになく、普通の家々が立ち並ぶ住宅街。どの家もボロボロで、ひどいところではツタに覆われているところも。もはやだれもおらず静寂に包まれているため、物寂しさがきわだっていた。
「ここがファントムさんが言ってた場所なのよね?」
「ああ、そのはずだ」
そしてようやく目的の場所にたどり着く。そこには
なぜこの場所に来たかというと、ファントムがレイジと結月に話しがしたいとコンタクトをとってきたから。もしかするとなにかの罠かもしれないが、あの伝説の情報屋と接触出来る可能性があるため見過ごせず、あれから急いでやって来たのであった。
「結月、なにがあるかわからないから、いつでも戦える準備はしといてくれ」
「うん、わかったよ」
気を引き締めてから、教会の扉に手を掛け中へ。室内は礼拝に訪れた人の席はあちこち壊れ、
とりあえず半壊した教卓の前まで向かうと、突然女性の声が聞こえてくる。
「おっ、いらっしゃい、お二人さん!」
声の方に視線を移すと、そこには小さな小鳥型のガーディアンが礼拝者用のイスにとまっていた。
小鳥型のガーディアンはそのまま羽をはばたかせ、半壊した教卓の方にとまる。
「あんたがファントムか?」
「にひひ、そうだよー。ワタシがかの有名なファントムさん!」
得意げに自己紹介してくるファントム。
声の方には完全に特定させないためか、少しノイズのようなものが混ざっていた。
「どれどれ、辺りには誰もいないと! ちゃんと二人だけで来たようだね! うん、えらい!」
どうやら改ざんで周辺を確認したらしい。彼女は情報屋でもあり、SSランクの電子の導き手なのでそこらへんはぬかりがないようだ。
「このことは誰にも言うなって、忠告されたからな。特に那由他に指示を仰(あお)いだら、すぐさま取引きは白紙って話だったし」
ファントムの話し合いの条件に、誰にも知らせず二人だけで来るようにと念押しされていたのだ。
「どうして那由他はダメだったんですか? 私たちより、那由他の方が話がスムーズにいきそうですけど?」
結月はあごに指を当てながら、首をかしげる。
「あー、ダメダメ! ああいう
ファントムはズケズケと本音を
確かに那由他ならうまい話があっても簡単にはとびつかず、思考を張りめぐらせるだろう。彼女は普段はアレだが非常に優秀なエージェント。そうそう出し抜けるものではないのだから。
「――あはは……、反応に困る話ですね……」
ようするにレイジたちはそこまで
「それでファントム、オレたちになにをさせたいんだ? さっさと取引の内容を教えてくれ」
「オッケー! まずは取り引きの確認から。さっきも言ったけど、これから二人にはワタシの依頼をこなしてもらう。その報酬にアラン・ライザバレットたちのターゲットに関する、とっておきの情報を渡すって感じだねー! ここまで異論はあるかなー?」
レイジたちがこの話に食いついたのも、今まさに欲しい情報が手に入りそうだったから。
ファントムは伝説の情報屋。その情報はおそらくどの情報屋から買うよりも、信憑性が高いはず。うまくいけばこちら側が有利に事を進められるかもしれなかった。
「本当にアラン側の情報を持ってるなら、問題はないよ」
「にひひ、そこんとこは心配ご無用だって! ――じゃあ、こちらの依頼を言うよ。ワタシはアビスエリアのデータが欲しいの! だから二人に連れていってもらい、データ収取のサポートをしてもらうのよん!」
「――アビスエリア……?」
聞きなれない言葉に首をひねる。
だが結月の方には心当たりがあるようで。
「――あそこのですか……?」
「そうそう! 片桐さんなら連れていけるよねー? アポルオンメンバーのホームベースであるアビスエリア! 特にあそこの十六夜島のデータをさ! 今までは執行機関とかに目を付けられたくなかったからスルーしてたけど、この混乱を期に調べておきたいのよん!」
話の流れからして、アポルオンに関係する重要な場所のようだ。
ファントムからしたらアビスエリアの情報は欲しいが、相手はあの世界を
だが今の保守派と革新派が争っている状況なら、あちらに気付かれずに事を済ませられるのではないか。しかも今のようにアポルオンメンバーを買収出来る絶好のチャンスもあるため、この話を持ち掛けたのだろう。
「うーん、いいのかなぁ……。これってスパイを手引きするみたいな、やばいやつよね……」
結月が戸惑うのももっともだ。
部外者を手引きすることとなんら変わらないため、ばれたら大事になるにちがいない。
「もちろん
あまり乗り気じゃない結月に、ファントムは魅力的な提案で一気にたたみかけてくる。
「ねえ、
「まあ、
これを逃せば今度はいつ連絡がつくかわかったものじゃない。そんなファントムとコネを持つチャンスに、結月が下した判断は。
「――わかりました。ファントムさんがこれからも力を貸してくれるというなら、アビスエリアに連れていきます」
結月は瞳を閉じ少し思考した後、ぱっと目を開き答えた。
「本当にいいのか? 下手すると結月の立場がわるくなるかもしれないんだろ? それなら断っても、誰も文句は言わないぞ」
「久遠くん、ありがとう。だけど今はあの子のために、少しでも力を集めておきたいの。だから……」
にぎる
すべてはアポルオンの巫女のためなのだろう。彼女のためなら少しばかりのリスクぐらい甘んじると。
「にひひ、オッケー! オッケー! じゃあ! この
レイジたちの目の前に、データでできた紙が二枚差し出される。
気がかりなのはその紙に書かれているであろう文字が、黒い太線で隠されているということ。なにかレイジたちに知られたくないことが、書かれてあったに違いない。
「いやいや、ファントム。怪しすぎるだろ、この書類!」
「まあまあ、気にしなさんなー! 大丈夫! 変なことは書いてないって約束するからさー!」
「――あれ? この書類って十六夜学園の部活の入部届けに似てるような……。気のせいかな?」
結月がアゴに指を当てながら、ふと気になることをつぶやいた。
くわしく聞こうと思うと、ファントムが楽しそうに
「ほらほらー! さっさとサインしちゃいなー! でないとこの話はなかったことにしちゃうよー?」
「クッ、仕方ない」
「うん。今はこうするしかないよね」
ここまできて話を白紙にされたら困る。
なのでレイジたちはファントムの言葉を信じてサインした。
「ありがとさん! これで二人入った! にひひひひ」
ファントムはサインが手に入り、満足げに意味ありげな言葉を口にする。
「それじゃあ、久遠の肩にでも止まらせてもらってっと。じゃあ、出発進行なのよん!」
小鳥型のガーディアンはレイジの肩へととまる。
「えっと、とにかくアビスエリアへ向かわないとね」
「結月、それでアビスエリアってどうやっていくんだ?」
アビスエリアについてくわしく教えてもらっていないため、結月にたずねてみる。
「まずはクリフォトエリアにある、十六夜島へ行きましょう」
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